「金大中大統領の誕生を祝福します」そう言い残して死刑囚は刑場に消えた 死刑賛成の世論が7割の韓国で、死刑廃止は実現するのか【韓国の死刑・後編】
軍事独裁政権と民主化運動の経験などから、死刑は政治的に敏感な問題として位置付けられてきた。では、韓国社会の受け止めはどうなのだろうか。後半では、韓国の世論や関係者の声について考えたい。(共同通信=佐藤大介) 【グラフ】死刑廃止国・地域と、死刑を執行した国・地域数の推移
「事実上の死刑廃止国」韓国で起きている「死刑再開論」 制度は維持され確定死刑囚は59人に、世論に押され執行施設を点検?【韓国の死刑・前編】 ▽増える死刑賛成 韓国で、長年にわたって死刑廃止運動に取り組んできたのが宗教界だ。1989年に死刑廃止運動協議会が設立された際、中心となったのはカトリックやプロテスタント、仏教などの宗教関係者だった。 カトリック人権委員会の張藝浄(チャン・イェジョン)常任活動家は「冤罪の人が死刑になる可能性があるのは、軍事独裁政権時代に証明されている。野蛮で非人道的な死刑制度は、すぐに廃止すべきだ」と話す。だが、そうした意見は決して多数派ではない。 2018年に韓国の国家人権委員会が行った世論調査では、死刑制度について「必ず維持すべき」(19・9%)、「維持されるべきであるが、死刑判決や執行には慎重を期すべき」(59・8%)と、賛成意見が79・7%を占めている。一方、反対の意見は「すぐに廃止すべき」(4・4%)、「いつかは廃止しなくてはならない」(15・9%)で、合計が20・3%と大きな開きがある。
ここで注目したいのが、同委員会が2003年に行った同様の調査結果との比較だ。2003年は死刑制度の賛成意見が65・9%で、反対意見は34・1%だった。15年間で、死刑に反対の意見は13・8ポイントも減少したことになる。特に顕著なのが、強固な賛成と反対意見の変化だ。死刑制度を「必ず維持すべき」との意見は、8・3%から19・9%に急増し、一方で「すぐに廃止すべき」との意見は13・2%から4・4%に減少している。 ▽死刑賛成の弁護士「凶悪犯が更生する可能性はゼロ」 こうした数字は、日本政府が死刑制度の是非を尋ねた2019年の世論調査で、約8割が「死刑もやむを得ない」と回答した結果と重なる。死刑執行が25年行われておらず、国際人権団体から「事実上の死刑廃止国」に認定されている韓国でも、死刑に対する世論は、死刑執行を続けている日本と大きく変わらない状況となっている。 死刑制度を支持し、2022年6月には「死刑を執行せよ!」というタイトルの著書を出版している弁護士の金泰洙(キム・テス)さんは「凶悪犯罪を防ぐため、世論が死刑を必要としているのは明らかだ」と力説する。