道具は全部で2万円でおつり 餌要らずで楽しめる ルアーで瀬戸内海の地魚狙う「チニング」に挑戦した
ルアー(疑似餌)で手軽に楽しめる釣りが人気なのだという。エギング(アオリイカ)アジング(アジ)メバリング(メバル)―。そして最近は瀬戸内海の地魚・クロダイ(チヌ)を狙うチニングが注目を集めているらしい。秋から冬にかけて身が太り最もおいしい季節。そんなチヌが手軽に釣れるかも。子どもの頃から海釣りに親しんできた記者(30)だがチヌは未経験。期待しつつ、まずは釣具店の門をたたいた。 【写真】「スーパーで今日買ったコウイカが暗い中光ってます」 「若い人や女性の間でチニングの人気が高まっています」 9月下旬、くり釣具店(岡山市南区築港新町)を訪ねると、店主の栗原学さん(53)が教えてくれた。「餌になるアオムシなどを触る必要がなく、簡単に楽しめる」という。とりわけ、引きが強いチヌはスリリングなファイトを楽しめ、根強い人気を誇っている。 「この辺りでもルアーでよく釣れているよ」との言葉に意を決し、釣り具を選んでもらった。 糸は、初心者でも扱いやすい太さの3号(直径0・285ミリ)、素材は強度の高いナイロン製。ルアーはチヌの口に合う長さ5センチ程度、浮かぶタイプと沈むタイプの2種類を買った。「いろんな場所や水中の階層を探るのがチニングの基本。投げ続ける根気が何より大切です」とアドバイスしてくれた。 リールとチヌ専用のさおも購入し、全部合わせて1万5千円ほど。これだけあれば、餌要らずで釣りを楽しめる。 ■夜の新岡山港へ 道具をそろえた翌日の昼間、岡山市内の旭川河口で試してみた。1時間ほど投げ続けたものの全く反応なし。そんなに簡単にはいかない。 〈チヌのことをもっと知る必要がある〉と考え、インターネットで調べたり、釣り好きの先輩記者に聞いたりした。「チヌは警戒心が強く、夜行性。夜間の方が釣りやすい」「最近は新岡山港(岡山市)で釣果が出ているみたいだよ」 10月に入り、夜に新岡山港で再挑戦した。猛暑だった季節も遠ざかり、潮風が心地よかった。記者以外にも釣り人が4人ほどいた。 新岡山港周辺の海底には敷石がある。根掛かりしにくい浮かぶタイプのルアーをチョイスした。根掛かりとは、釣り針が水中の障害物に引っかかって回収できなくなるトラブルのことだ。 夜の港はとても静か。ルアーを投げる「シュッ」という音だけが響く。対岸に点々と浮かぶ明かりが幻想的だ。 「チニングは根気」。栗原さんの言葉を信じ、場所を変えつつ繰り返しルアーを放った。釣り始めて1時間ほどたった午後10時半ごろ。 ブルブル―。 さおに独特の振動が伝わり、胸が高鳴る。〈絶対に逃すまい〉と必死でリールを巻き、獲物を岸に揚げることに成功した。急いでヘッドライトをつけると、手のひらサイズのチヌがぴちぴち…。 全長を測ると13センチ。記念すべき1匹目はとても小さかったが、黒光りする姿が美しい。思わず「うおー!」と喜びの声が出た。 ■塩焼きは濃厚なうまみ 自宅に持ち帰り、新鮮なうちに調理した。雑食性なので内臓はしっかり取り除き、鋭い背びれも切り落とす。身に切れ目を入れて、塩焼きに。グリルに火を付けると、香ばしい磯の匂いが台所に立ち込めた。 熱々を頬張ると、弾力のある身の濃厚なうまみが口に広がった。妻にも食べてもらうと「臭みが全然なくて、おいしいね」と好評。釣った魚を「おいしい」と言われると、何だかうれしい。 岡山でよく食べられてきたチヌは、かつて高級魚とされたものの、養殖マダイなどに押されて消費が低迷。一方、養殖ノリやカキを食い荒らしており、消費拡大が重視されている。チヌを釣って味わえば、微力ながら消費拡大につながるかも。 チニングはやはり手軽さが魅力で、仕事帰りでも気軽に楽しめそうだ。気温が下がるにつれ難易度は上がるが、まだまだシーズンまっただ中。次は揚げ物にしようか、煮付けにしようか、それとも刺し身…。「大物ゲット!」の想像ばかりが膨らんでいる。 クロダイ 全国に広く分布し、沿岸部の藻場や岩礁から汽水域まで広範囲に生息する。西日本では一般的にチヌと呼ばれる。成長とともに雄から雌に性転換する珍しい魚。大きいもので50センチ以上になる。 (まいどなニュース/山陽新聞)
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