地方中小で“進まぬDX”──伴走する地銀に立ちはだかる「4つの壁」
人口減少と高齢化が進む地方経済。その活性化の切り札として期待されるのが、中小企業のDXだ。そして、その担い手として注目を集めているのが地域金融機関である。 【画像】「取り組みの状況」を見る 10月18日に都内で開催された「DIGITALCAMP金融DXカンファレンス2024」。金融庁や経済産業省の担当者、そして実際にDX支援に取り組む地域金融機関の責任者らが一堂に会し、地域DX推進の現状と課題について熱い議論を交わした。 DIGITALCAMPは、フリーとサイボウズが2021年に設立した一般社団法人だ。地域金融機関向けにDX人材の研修を行い、地域の中小企業のデジタル化支援を担う人材の育成に取り組んでいる。 「地域の中小企業のDX推進は、地域創生の第一歩」。DIGITALCAMPの渡辺光副代表理事は開会時にそう語った。しかし、その道のりは平坦(たん)ではない。人材不足、資金不足、そして何より経営者の理解不足。これらの壁を乗り越え、地域金融機関は果たして夢見る未来を実現できるのか。 金融庁や経産省が描く理想像と、現場で奮闘する金融機関の実態、そしてその間に横たわる課題と可能性に迫った。
地銀は単なる「資金提供者」のままではいけない
地域金融機関によるDX支援が目指すのは、単なる資金提供者から「デジタルコンシェルジュ」へと進化を遂げることだ。では、このデジタルコンシェルジュとは具体的に何を指すのか。それは、地域企業のデジタル化を包括的に支援し、その経営課題解決に寄り添う存在である。 従来の融資業務にとどまらず、企業の業務効率化や新規事業創出までを視野に入れた支援が求められている。すなわち、クラウドツールの導入支援から始まり、データ分析による経営改善提案、さらにはAIを活用した新サービス開発のアドバイスまで、幅広い役割を担うことが期待されているのだ。 このような変革が求められる背景には、地方企業が直面する深刻な人手不足がある。経済産業省の調査によると、企業が抱える経営課題のトップに「労働力不足」が挙げられている。そのため、DXによる業務効率化や生産性向上は、人手不足対策として喫緊の課題となっているのだ。 こうした中、地方企業が最も頼りにしているのが地域金融機関だ。ITソリューションを紹介するだけのビジネスマッチングでは「紹介して終わり」という形が多かった。地域金融機関には、その後も継続的にサポートを行うことが求められている。特に、人材や知識が不足する中小企業にとって、信頼できる地域金融機関がデジタル化の相談相手となることへの期待は大きい。 金融庁総合政策局フィンテック参事官の清水茂氏は、これは金融機関にとっても意味があると指摘する。「資金繰り支援にとどまらず、付加価値の高い支援を提供することで、自らの収益基盤を強化することが重要」というのだ。つまり、地域企業へのDX支援は、地域金融機関自身の持続可能性を高めることにもつながるのである。 さらに、経済産業省の河崎幸徳デジタル高度化推進室長(「崎」は「たつさき」)は、より踏み込んだビジョンを示す。「従来の間接業務のデジタル化支援にとどまらず、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)の受託など、金融機関自身のビジネスモデル変革も視野に入れるべき」と提言しているのだ。 例えば、取引先企業の財務会計業務をクラウド上で一括管理し、リアルタイムで経営状況を把握・分析するサービスを金融機関が提供したとする。これにより、金融機関は取引先の資金繰りや経営状態をリアルタイムで把握できるようになる。 その結果、より精緻な融資判断が可能となり、企業の成長段階や経営状況に応じた迅速かつ適切な資金供給が実現する。さらに、AIによる分析を加えることで、経営危機の早期発見や、新たなビジネスチャンスの提案など、従来の金融機関の枠を超えた高度なコンサルティングサービスの提供も可能となるのだ。 このように、地域金融機関がデジタルコンシェルジュとして機能し始めれば、地域経済の新たな成長モデルが生まれる可能性がある。