本田宗一郎とイーロン・マスクに共通点があった? 稀代の経営者を支える「無知の知」とは何か
イーロン・マスクの哲学
本屋の経営者コーナーに行くと、今やイーロン・マスクに関する本が所狭しと並んでいる。筆者(灘真、テックライター)がいくつかの本を読んでいくうちに、イーロン・マスクの哲学は、次の3点に特徴づけられた。 ・壮大すぎるほどのビジョンとプラン ・失敗を恐れず、成功するまで諦めない姿勢 ・自分の仕事への自負 壮大すぎるほどのビジョンとプランは、イーロン・マスクでいえば「火星への移住」であり、本田宗一郎であれば 「マン島TTレースでの優勝」 だろう。頑張れば手が届くのではなく、実現に向けた技術や道筋から積み上げていかなければならない目標は、自分自身を奮い立たせて、かつ周囲のものを同じ方向に向かって駆り立てるには十分だろう。 もちろん、壮大な計画は、ややもすると大風呂敷とやゆされるだけで終わる可能性がある。そのためにも、失敗を恐れず、成功するまで諦めない姿勢は欠かせない。この点は、イーロン・マスク、本田宗一郎も同じであり、 「成功するためには、成功するまで続けることである」 といった松下幸之助もそうだ。諦めない姿勢が、周囲をも巻き込み、壮大な計画を実現するのかもしれない。 ただ、諦めない姿勢を貫き通すためには、自分自身から湧き出る尽きることのない根源的なエネルギーが必要だ。この根源的なエネルギーが、自分の仕事への自負や愛着、あるいは使命感ではないだろうか。イーロン・マスクだと「世界に役立つことをしているという自負」であり、本田宗一郎だと 「得手に帆をあげて」 となる。やはり自分自身が事業や目標にのめり込めないと、諦めない姿勢を維持できないし、失敗を乗り越えられないといえる。
両者の違い
この ・壮大すぎるほどのビジョンとプラン ・失敗を恐れず、成功するまで諦めない姿勢 ・自分の仕事への自負 という3点は、いい方に若干の違いはあれど、本田宗一郎やイーロン・マスクだけでなく、時代を築いてきたイノベーターに共通している点といっていい。 ただイーロン・マスクに関する資料を見たかぎりでは、本稿の主題である「無知の知」に対する言及が見つからなかった。なんとか近しいところで、 「難しいからこそやりがいがある」 「ずっと同じものの見方をしていると、いつまでたっても変わらない」 ぐらいだ。「無知の知」をはっきりと自覚しているところが、本田宗一郎とイーロン・マスクの違いなのかもしれない。 ネットを検索して得た情報では、ジーユーの代表取締役社長である柚木(ゆのき)治氏の座右の銘が、「無知の知」だそうだ。柚木治は、「無知の知」を自覚しているからこそ人の話をよく聞くという。 この場合、「無知の知」をどちらかといえば自分を戒める言葉として、あるいは処世訓として捉えており、 「だから面白い」 という本田宗一郎と異なるように思える。