100年前より安全になったとは言えない--首都圏に潜む、地震火災リスクを考える #災害に備える
100年前より出火件数は増えている可能性がある
――まずは「出火」の観点から。かまどや七輪を使っている家は、いまやほとんどない。ガスも大きな揺れを感知したら止まるしくみがある。 「100年前と比べて、現代都市の火気使用環境は大きく変化しており、出火原因での比較は困難です。ここでは、1万世帯当たりの出火件数を『出火率』と定義し、様々な地震が起きたときの出火率を比較してみます」 「出火率は、関東大震災のときは東京市で2~3件ぐらいです。1995年の阪神淡路大震災も結構多くて、神戸市の震度7地域を見ると3件ぐらい。つまり1万世帯当たり3件の出火が発生している計算になります」 ――1995年の時点でも結構多い。 「真冬で暖房器具を使っていた影響や、揺れの特性などもあるかもしれません。その後は、2004年の新潟県中越地震の震度6強以上の地域で1.2件、東日本大震災で0.4件、熊本地震は0.2件。出火率も時刻や季節などに大きく左右される面はありますが、ずいぶん低下してきたと言えなくもない」
――現代だと電気火災が多い? 「停電からの復旧時に発生する通電火災もありますが、屋内配線の短絡や、電気器具などから出火したりするケースも多いですね。そのほかにも地震の時は想像もしない形で出火することもあります」 ――出火率が減少傾向にあるというのは、安心材料では。 「出火率だけ見ればそうなのですが、肝心の出火件数は多くなる可能性もあります。関東大震災当時の東京市の出火件数は134件とされ、阪神淡路大震災の出火件数は285件。東日本大震災時は、被災範囲は広いですが398件と言われています。首都直下地震では運の悪い状況では800~900件ぐらいの出火件数も想定されています」 「ちなみに、東日本大震災の時の東京(震度5強)の出火件数は35件。東日本大震災のデータを調べてみると、5強の地域と6強の地域で、10倍ぐらい出火率は異なる。雑な計算ではありますが、もし東日本大震災のときに東京が震度6強だったら350件ぐらい出火することになります。関東大震災時の東京の最大震度が6強だとしたら、3倍ぐらいに増えているわけです。そういう意味でも、出火件数はやっぱり増加傾向にあるという可能性も否定できません」 ――出火率は下がる一方、出火件数は増えているのはなぜか。 「大きな理由として、都市の拡大があげられます。現代の大都市は世帯数が100年前と比べて飛躍的に増加しました。なので、全体としての出火件数は増えてしまう。発生が危惧される首都直下地震や南海トラフ巨大地震では、もっと多くなる可能性もある。『出火』という観点については、100年たってむしろ悪くなっていると捉えたほうが安全かもしれない」