ゲイと公表した後も怖かった――與真司郎が得た「自分らしく生きる」実感 #性のギモン
ゲイ公表までの長い道のり
自分が人と違うと完全に気づいたのは中学生の頃。まわりが好きな女の子の話をしている時に、同じように盛り上がれなかった。ゲイという言葉も知らなかった。今のようにインターネットで調べられる時代ではなく、與さんは「自分のような人間は世界に1人なんじゃないか」と思い込んだという。 「テレビのバラエティーでも、LGBTQ+の人たちは笑いの対象として登場することが多かった。その光景が頭の中にずっとあって、トラウマのように自分を縛っていたんだと思います。自分を押し殺していたと思う」 芸能活動をスタートし、ドームツアーを行うまでになった。 「僕は、ありがたいことに仕事が忙しかったので、向き合わずに済んでいた気がします。でも、走り続けていると、自分が見えなくなってしまうんです。今の社会は、他人から認められたいという欲求をみんな持っているので、みんながいいと言うものに自分を合わせてしまう。この頃はゲイであることの葛藤よりも、人と比べられることが一番つらかった」 息苦しさから逃れるために海外へ行くことを決意。2016年、27歳で単身渡米。ロサンゼルスでの生活が始まる。しかしロスでも隠すことが最優先だった。 「自分のセクシュアリティーを受け入れるまでに相当時間がかかりました。公にしたほうが自分らしく生きられるとようやく思えるようになったのは、2020年、コロナの感染拡大が始まった頃です。アメリカのセレブたちは、自分のメンタルヘルスにも恋愛に対してもすごくオープンです。メディアに写真を撮られても、『別に悪いことしてないし』って。仕事だけではなくプライベートも大事にする考え方に影響を受けたし、アメリカに行っていなかったら、今もカミングアウトしていないかもしれません」
born this way「このように生まれてきた」
ロサンゼルスでは、ゲイやレズビアンのカップルが当たり前に生活していた。與さんの理想は、カミングアウトしても特別扱いされない社会だ。 「このあいだもスーパーに行ったら、男性同士で手をつないでいるカップルがいて、いいなあと思いました。日本ではまだ、『LGBTQ+の人』みたいな感じで、壁がある気がするんです。僕の場合はですが、『だから何?』ぐらいの感じで、フラットに受け止めてくれるのが一番うれしい。 いつもお話しすることですが、自分たちは悪いことをしているわけではありません。レディー・ガガの歌にもあるように、“born this way”(このように生まれてきた)ということだと思う。自分がそうなりたくてなったわけではないし、かといって親のせいでもない。誰のせいでもないからこそ、ノーマライズされるべきだと思います。世界中で、まだゲイが認められていない国もあるから」 ノーマライズとは、誰もが同等に基本的な権利やふつうの生活が保障されるべきだという考え方のこと。性的マイノリティーであることで差別を受ける国は、今も存在する。 「アメリカでも、州によってはカミングアウトできないという方もたくさんいます。だから僕は、自分が体験したことを、日本だけじゃなくて、世界で語ることで、救われる人がいてくれたらいいなと思っています。本当につらかったから。アクティビストになりたいわけではないけど、自分が大切だと思ったことについて声を上げることは悪いことではない。アンチが来ても、そういう意見もあるよなと思いながら、でも自分が幸せになるように生きていくことって大切だなって。それはLGBTQ+の人たちだけじゃなくて、常に競争にさらされているこの生きづらい社会で、心が疲れてしまっている人たちみんなに伝えたいことです」 アメリカに渡った頃は、「自分を見つめ直す」という言葉の意味がわからなかった。一人になって、不安な時間をくぐり抜けたことで、立ち止まることの大事さに気づいた。 「今、いろいろなプロデューサーと共同で曲づくりを進めているんですけど、自分の人生を投影できるのがめちゃくちゃ楽しい。隠さなくていいからさらにクリエーティブになれるし、自分の素直な気持ちを作品に落とし込む事が出来るのでアイデアも浮かびやすい。本当に自分らしく生きることってこれだ!っていうのを、感じられるようになってきています」 あたえ・しんじろう/1988年京都府生まれ。2005年、AAAのメンバーとしてデビュー。5度のドームツアーを成功させる。ソロアーティストとしてもアリーナツアーを開催。約2年間の活動休止を経て、2023年7月に「Into The Light」を発表し活動を再開。2024年3月12日には約8カ月ぶりの新曲「FUN FOREVER」を発表し、6月からは活動再開発表以来初のソロパフォーマンスを含めたツアー『SHINJIRO ATAE LIVE TOUR & TALK SHOW 2024 - THIS IS WHERE WE BELONG -』の開催予定。 --- 「#性のギモン」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。人間関係やからだの悩みなど、さまざまな視点から「性」について、そして性教育について取り上げます。子どもから大人まで関わる性のこと、一緒に考えてみませんか。