元自衛官からみたPKO日報問題 すり替わった議論の本質
問題の根本は「政治の不作為」にある
では、やはり稲田大臣に問題があったのかと問われれば、私はそれに対しても、否と答えます。 南スーダンへのPKO派遣が行われた際、私や防衛問題を良く知る人たちが異を唱えていたことは前にも述べました。 誰であれ、何か月、何年も先の情勢など、完全に見通せるはずはありません。情勢の変化で派遣された部隊が“違法”になってしまうような法制の元で、部隊が派遣されていることが、根本的な問題なのです。 南スーダンPKOは、本年5月に部隊が撤収し、終結しました。 政府は、治安悪化が撤収の理由ではないとしていますが、南スーダンの復興は、道半ばどころか始まったばかりに過ぎず、やるべきことをやり切ったとはとても言える状態ではありません。昨年7月のように再び内戦状態となってPKO参加五原則に抵触する事態を避けたかったことは間違いありません。 そうした考えがありながら、南スーダン政府や他のPKO部隊派遣国との調整に、1年近い月日を要したのです。 駆けつけ警護の任務付与にとどまらず、PKO参加五原則の見直しが必須だと私は考えます。この日報問題が発生した根本の原因は、PKO法を見直さずに放置してきた政治の不作為にあります。 河野外相は、この日報問題に関して日報はあるはずだと主張し、結果的に稲田氏を蹴落とすことになりました。にも関わらず、今回の内閣改造で外相に抜擢されています。日報問題が顕在化して以降、この「国の不作為」を見直すべきという考えで行動されていたのなら、今後の活躍にも期待が持てるかもしれません。
-------------------------------- ■数多久遠(あまた・くおん) ミリタリー小説作家、軍事評論家。元航空自衛隊幹部。自衛官として勤務中は、ミサイル防衛や作戦計画の策定に携わる。その頃から小説を書き始め、退官後に執筆した『黎明の笛』セルフパブリッシングで話題になったことから、作家としてデビュー。最新刊は、北朝鮮危機における陸上自衛隊の活躍を描いた『半島へ 陸自山岳連隊』。他の著書に、『黎明の笛』、『深淵の覇者』(全て祥伝社)がある