温泉で歯が溶ける? お風呂を控えるのは口内がこんなとき! 温泉・お風呂と「歯」の関係性【医師が解説】
口内がこんな日は入浴しないほうがいい
上記のように温泉やお風呂には様々な効能がありますが、歯や歯ぐきなど口の中の状態次第で症状が強まったり悪化したりすることがありますので、いくつか挙げてみましょう。 ・歯髄炎 虫歯が進行して虫歯菌が歯の内部にある歯髄(いわゆる歯の神経)を刺激すると歯髄に炎症が起き、血液が集まってきます。この「歯髄充血」により歯の内圧が高まりますが、歯髄は硬い歯の組織で囲まれているため圧が逃げることができず、痛みとして感じやすくなります。その結果、ズキズキと脈打つような激しい拍動痛になることがあります。入浴で体が温まると血圧が上昇するため、拍動痛がさらに起きやすいので要注意です。 ・歯肉炎(歯周炎) 歯と歯ぐきの境界部にある歯周ポケットで歯周病菌が増殖して化膿したような場合、ポケットの内圧が高まります。特に乳歯から永久歯への生えかわりが盛んな6~12歳頃は歯ぐきが不安定で、炎症が起きやすい時期でもあります。入浴は血液の循環を促進しますから、化膿した病巣の炎症が強まり、痛みが助長されることがありますので気を付けましょう。 ・根尖性歯周 歯根の先端に膿瘍がある場合、歯と同様に周りが硬い骨で囲まれています。入浴で炎症が強まって内圧が上がり、激しい疼痛(とうつう)を伴うことがあります。これらの強い痛みに対しては、鎮痛薬に加えて抗菌薬の服用が必要な時もあります。また、痛みがある部分の皮膚の上から保冷材等で冷やすことも痛みを和らげるのに効果的です。 ・抜歯、歯肉切開など出血を伴う処置後 抜歯などで出血すると止血を確認して処置は終わりますが、その後自宅で入浴して血の巡りがよくなると再び出血するリスクが上がります。抜歯後の注意点として歯科医院で説明があると思いますが、処置をした日は湯船に浸からずにシャワーで体を流すようにしたほうが安全です。
温泉で歯が溶ける!?
温泉には入浴だけでなく飲むという利用法もあり、文字通り「飲泉」と呼ばれます。古くは日本書紀に持統天皇の御代に飲泉で多くの病者を治療したという記述もあり、日本では歴史的に古くから行われてきました。しかし、温泉のpHが特に強い酸性の場合、酸で歯が溶けるリスクがあることが指摘されています。特に乳歯や幼若永久歯(生えたばかりの永久歯)は酸に弱いので、要注意です。 一般的に酸性の温泉は塩酸、硫酸などの成分を含み、火山地帯の温泉で見られます。そのため欧州をはじめとした海外では酸性の温泉は少なく、日本独特の泉質です。日本では、三大名湯の一つである群馬県の草津温泉や北海道・川湯温泉、秋田県・玉川温泉などが強酸性泉として知られています。 歯が酸で溶けだすpH値(臨界pH)は約5.4ですが、強酸性泉ではpH値が1~2に及ぶ所もあります。飲泉する場合は脱衣所などに記載されている温泉成分の掲示板を確認するなど、事前のチェックが大切です。 飲泉する際に気を付けたいのは、希釈して薄めて飲む、あるいは飲んだ後に水やお茶でブクブクうがいするなど、酸が直接的に歯に作用しないようにすることです。 このように温泉やお風呂は物理的・化学的作用の両方で口の中に悪影響を及ぼす可能性がありますが、健康的な歯を守る歯磨きでは活用したい場所でもありますので、その理由を挙げてみましょう。