角野隼斗「第九ひろしまを盛り上げたい」 人気ピアニスト、ゲスト出演で広響と協演
ベートーベンの交響曲第9番を市民が合唱する年末恒例の「第九ひろしま」(中国放送、中国新聞社主催)。12月15日に広島サンプラザ(広島市西区)である今年の公演は、人気ピアニスト角野隼斗(29)がゲスト出演し、広島交響楽団と協演する。先月、市内を訪れた角野に、公演や広島に寄せる思いを聞いた。 動画はこちら ―第1部でガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」を、指揮者も兼ねる「弾き振り」で演奏するそうですね。 「ラプソディー―」は1924年に初演され、今年100年目を迎えます。当時、クラシックとジャズを融合する形でガーシュインが作り上げた新しい音楽。僕は中学1年のころから弾いていますが、自由度が高く、毎回新しい発見があります。 「弾き振り」は指揮者を介さないので、オーケストラと音楽でコミュニケーションを取る楽しさがある。「ラプソディー―」は、ホルンやオーボエ、クラリネットと直接やりとりするところがあり、さらに楽しんでもらえると思っています。 広響とは、昨年7月にも呉市でガーシュインを協演した仲。すごく盛り上がったし、聴衆も温かかった。今回も、僕のリズムをきっとくみ取ってくれるんじゃないかと思っています。アレンジもいろいろやってみたいですね。 ―「第九ひろしま」になぜ、出演しようと思ったのですか。 第九は、世界平和的な側面があり、全員が一体になれる力を持つ曲。2022年に大阪市で「1万人の第九」に出た時の高揚感や非現実感は今でも覚えています。広島で千人規模の第九が開催されることに、とても意味を感じますね。(第2部の「第九」で)僕は合唱には参加せず、観客として楽しむ予定ですが、ぜひ一緒に盛り上げられたらと思い、出演依頼を受けました。 ―5月には、広島市の平和記念公園を訪れ、被爆ピアノ「明子さんのピアノ」を試奏しました。 明子さんのピアノには特別な物語があり、演奏しながら感じるものがありました。ふだんのコンサートでピアノが持つ歴史やストーリーに注目して演奏することはないですし、改めて貴重な体験だったと思います。 22年に初めて広島でコンサートをして以来、毎回、平和記念公園へ行きます。原爆慰霊碑の「過ちは繰返しませぬから」の文言を見て、号泣したこともあります。史実を知らなければ、ということだけでなく、心を動かす何かがあると思うんだけど、言語化ができないんです。 ―7月に東京の日本武道館で単独公演を成功させ、世界各地のオケと協演するなど、活躍の場が広がっています。どんな演奏家を目指しますか。 海外で演奏すると、インスピレーションが湧くことがあります。シカゴ交響楽団と野外演奏をした時には、遠くから鳥やセミ、子どもが遊ぶ声が聞こえ、ショパンのピアノ協奏曲を弾きながら、映画を見ているような気持ちになりました。スイスの教会では、しばらく鐘が鳴り続ける中で演奏し、鐘をモチーフにした曲が多い理由に気付かされました。 音楽に限らず、体の中から何かを創り出すということは、僕がどれだけ外部から影響を受けるか、ということに依存すると思う。クラシックという長い歴史、伝統を未来につなげるとともに、今の時代にしかできない新しい要素を探し続けていきたい。それはたぶん、これからも変わらないと思いますね。
中国新聞社