バロンドールは「世界最高のサッカー選手」、今年は誰に? 混同されやすい二つの年間最優秀選手賞、その歴史をひもといてみた
サッカー専門誌フランス・フットボールが選定する2022~23年シーズンの世界最優秀選手賞「バロンドール」の表彰式が10月30日にパリで行われる。サッカー界で最も権威ある個人賞として知られ、近年は日本で「将来はバロンドールを取りたい」と公言する選手も少なくない。国際サッカー連盟(FIFA)が選出する世界最優秀選手賞も併存するため二つの賞は混同されやすいが、フランス・フットボール誌のバンサン・ガルシア編集長(44)は「FIFAの賞について言えることは特にないが、長い歴史と伝統を誇るバロンドールがスポーツの枠を超えた美しい賞であることは間違いない」と語る。今は世界最高の選手をたたえる称号として定着しているが、この30年余りでさまざまな紆余曲折を経て現在の形に至った。(共同通信ロンドン支局=田丸英生) ▽90年代から伝統に変化 賞の始まりは67年前に遡る。フランスのスポーツ紙レキップの記者が提唱した欧州チャンピオンズカップ(現欧州チャンピオンズリーグ)が1955~56年シーズンに創設されたタイミングに合わせて、レキップ紙と同じグループの傘下にあるフランス・フットボール誌が欧州最優秀選手の表彰を考案した。16人の記者投票で選ばれた56年の初代受賞者は50歳までプレーしたことで有名なイングランドのスタンリー・マシューズで、その後は70年代にオランダのヨハン・クライフ、80年代にフランスのミシェル・プラティニがそれぞれ3度選ばれるなど多くの名選手が賞の歴史を彩ってきた。
その一方で選考が欧州の選手に限られたため、ワールドカップ(W杯)で伝説的な活躍を見せたブラジルのペレやアルゼンチンのディエゴ・マラドーナは対象外でバロンドールとは縁がなかった。 長い伝統が変わるきっかけとなったのが、91年にFIFAが世界最優秀選手賞を新設したことだった。60年代から世界のサッカーを取材する英国人ジャーナリストのキア・ラドネッジ氏(75)は「マラドーナら欧州以外の選手も対象としたFIFAの新たな個人賞は、フランス・フットボール誌にとってバロンドールの立場を脅かす存在となった」と当時の情勢を解説する。90年代にサッカー界のグローバル化が進み、バロンドールも対象を「欧州のクラブでプレーする選手」に広げると、95年にACミラン(イタリア)のリベリア代表FWジョージ・ウェアがアフリカ出身選手として初めて受賞。97年にはインテル・ミラノ(イタリア)のブラジル代表FWロナウドが南米初の栄誉に輝いた。