日本有事に安保で米軍は動くのか 法哲学者や元自衛隊幹部が語る懸念
ロシアによるウクライナ侵攻は、日本人にも大きな危機意識を芽生えさせた。他方、それでもどこか「安全」を感じているのは、日米安全保障条約があり、「いざとなったらアメリカが守ってくれる」という考えがあるからだろう。だが、もしもの際、本当に日米安保条約は機能するのか。状況によっては難しいと語る法哲学者と陸上自衛隊の元陸将に話を聞いた。(ジャーナリスト・小川匡則/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
井上達夫・法哲学者、東京大学名誉教授
<日米安保条約第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。> 「この安保第5条は日本の安全保障の基本条文です。アメリカで大統領が代わるたびに、日本政府はこの5条が尖閣諸島にも適用されることの確認を求めます。もし尖閣に何かあれば、アメリカは助けてくれますよねという確認です。歴代の大統領は尖閣も適用対象だと応じてきました。でも、尖閣に中国が侵攻したとき、本当にアメリカが軍を出すでしょうか。実のところは難しいと私は考えます」
「なぜか。安保第5条に秘密がある。ここには、日米が共通の危険に対処すると定められていますが、よく読むと、『自国の憲法上の規定及び手続に従つて』とある。合衆国憲法は、開戦決定権が連邦議会にあると定めている。つまり、連邦議会で承認されなければ日米安保は発動されないのです」 「在日米軍基地やアメリカの戦略上の要衝が攻撃を受ければ、米軍はすぐに動くでしょうが、尖閣については『あんな無人の岩島を守るために米軍が出動するのはナンセンスだ』と考えている米軍関係者もいる。そこに中国が侵攻したとして、アメリカが中国との全面戦争のリスクを冒してまで、在日米軍を出動させるでしょうか。尖閣の有事で、日米安保によって米軍が日本のために戦ってくれるというのは願望思考だと言わざるを得ません。自衛隊に任せて米軍は背後に回るでしょう」 「もともとアメリカは自国の世界戦略上の利害を最優先します。それに合致すると思えば、議会の開戦決定なしの戦争も実際にはやってきた。要するに『議会の承認』というのは、参戦を断る理由として便宜的に使えるのです」