衝撃の発表から20年、謎多き「ホビット」フローレス原人はどんな人々でなぜ小さかったのか
島にいたほかの生物たち
洞窟とより広範な動物相の分析から、フローレス島の人類がどのような世界で暮らしていたのかが、徐々に明らかになっている。 熱帯の火山島で初期の人類が発見されたことは、科学界にとって衝撃だった。「フローレス島は、アフリカなど、化石人類が見つかっているほかの地域と比べて、独特の生態系がありました」と、ノルウェー、ベルゲン大学の古生物学者ハンネケ・メイエル氏は言う。 この島の密林は、東アフリカの草原を闊歩していたという初期人類の定番イメージとは大きく異なっていた。古代のフローレス島には、小型のゾウや大型のトカゲなどの珍しい生物が生息しており、ホモ・フロレシエンシスも間違いなく彼らのことをよく知っていた。 化石の鳥たちは、先史時代のフローレス島の生態系を解明するうえで最も役立つ化石のひとつだ。「鳥類は、環境や植生、生態系内での種間の関係性について、非常に有益な情報を提供してくれます」とメイエル氏は言う。 体高約1.8メートルの巨大コウノトリ(Leptoptilos robustus)は、ホモ・フロレシエンシスをはるかに上回る大きさだった。ほかの化石のコウノトリと比べて特別大きいわけではないものの、この鳥は島の大型肉食動物のひとつであり、島に生息するげっ歯類を狩り、ステゴドンなどの大型動物の死骸をあさっていた可能性が高い。 「コモドドラゴンやホモ・フロレシエンシスと同じように、巨大コウノトリやハゲワシも、ステゴドンを食料としていました」とメイエル氏は言う。これは、いくつもの種が、食料源としてこのゾウに依存していたことを意味する。ステゴドンが絶滅した際の連鎖的な影響が、ホモ・フロレシエンシスを含む肉食動物が島から消滅した理由なのかもしれない。
今も残る謎
人類学者がこれほど多くのことを解明してきたにもかかわらず、この初期人類がどのようにしてフローレス島にたどり着き、なぜ絶滅したのかは依然として不明のままだ。その答えを見つけるには、彼らを人類史における特異な存在としてではなく、当時の世界と相互に結びついた一部として理解する必要がある。 「ホモ・フロレシエンシスの進化を理解するには、フローレス島の動物相そのものの進化という文脈で考えることが不可欠です。なぜなら、彼らはこの環境にたどり着き、70万年以上にわたって繁栄したのですから」とメイエル氏は言う。 リアンブア洞窟以外の場所も含めた広範な調査により、さらなる情報が得られることが期待される。たとえば、フローレス島のソア盆地に位置するマラフマと呼ばれる場所では、ステゴドンの骨や石器が見つかっている。 われわれはホモ・フロレシエンシスが存在していたこと、そしてほかの人類とは違っていたことを知っている。しかし、現時点ではわかっていることよりも、わかっていないことの方がはるかに多い。 「『ロード・オブ・ザ・リング』の魔法使いガンダルフは、たしかこんなふうに言っていました」とトチェリ氏は言う。「ホビットについて何か理解できたと思っても、彼らはさらにその先を行って、こちらをひどく驚かせるのだと」
文=Riley Black/訳=北村京子