社説:別姓と外国人共生 日本の多様性広げる議論を
現実の暮らしと制度の間に生じた溝が大きくなり続けている。それを修正するのが政治の役割だが、不作為が続いている。最たるものが、夫婦が希望すれば結婚前の名字を名乗ることを選べる「選択的夫婦別姓制度」を巡る議論ではないか。 石破茂首相は、自民党総裁選では導入に賛意を示していたものの、首相就任後は「国民の間にさまざまな意見があり、さらなる検討が必要」などと慎重な姿勢に転じた。 「家族の一体性を損なう」などと反対する自民内の一部保守派に配慮したのは明らかだ。 岸田文雄前首相も「家族観が変わってしまう問題だ」として先送りしてきた。しかし、現実に不利益を受け、困っている人がいる問題である。これ以上のたなざらしは許されない。 自民以外の大半の党は導入に賛成している。自民は旧姓の通称使用の拡大で対処できると訴えるが、それが疑わしいことが明らかになっている。 パスポートへの旧姓掲載など、旧姓の通称使用の機会は増えたが、税や社会保障、不動産登記など、戸籍名が求められる局面は数多い。 滋賀県や京都市など全国300超の地方議会も、選択的夫婦別姓制度の導入や議論を求める政府への意見書を可決した。 職場で女性の管理職や役員が増えていることや、少子化で双方の名字を維持したいカップルが少なくないことが、地方の声の背景にある。 選択的夫婦別姓は同姓を希望する人に強制するわけではない。旧姓の通称使用が増える中、家族の一体性が同姓のみで保たれるという声は説得力を欠く。 法制審議会が民法を改正して選択的夫婦別姓を導入すべきと答申したのは28年前の1996年である。この間、各国は法改正を進め、夫婦同姓を義務づけているのは先進国では日本だけとされる。 LGBTなど性的少数者への理解増進法に基づく基本計画づくりも政府は着手していない。 いずれも多様な価値観を尊重する社会を築けるかどうかの問題だ。各党は議論を深めてもらいたい。 同様に、社会の多様性に関わるが、主要政党の言及が乏しい課題が外国人との共生だ。 人権侵害と批判された技能実習制度に代わり「育成就労制度」が2027年から導入される。税金や社会保障費を滞納した場合に永住許可が取り消される規定が、自民党の提言を受けて盛り込まれたが、法の下の平等の観点などから異論は根強い。 京滋で10万人を超える外国人が暮らすなど、日本はすでに移民社会になっている。この現実から目を背けず、外国人に長く活躍してもらうために必要な施策を議論する必要がある。