若手建築家・工藤桃子インタビュー。帝国ホテルやイッセイミヤケなど、トップブランドからのオファーが絶えない理由とは?
実例/建築も暮らしも、風景に溶け込む美しい住まい
「House facing the sea」は、東京から青森へと移住したご夫婦のための住まいです。敷地は山の中腹に位置し、森が開けた方角には遠く海を望むことができます。 「居間から海が見える家」という希望に、工藤さんは横長に伸びる木造平屋を計画。海側は水平に大きな窓を設け、反対の山側には小窓をランダムに設置することで、室内にいながら立地や環境のよさを常に感じられる家をつくり上げました。
家全体が煙突?斬新かつ合理的な発想
特徴的なのが、居室が団子状に連なった建物の形。これは、寒冷地ゆえの寒さ対策から生まれました。 「家の中心に廊下が通っていて、リビングの暖炉で暖めた空気が建物全体に効率的に行き届くように考えたものです。煙突を横に倒したようなイメージで、廊下が空気を運び、団子状の各室に暖気がたまる仕組みです」
地域の素材や職人など、その地らしい脈絡を丁寧につむぐ
建物の木材は県産材を使用。外壁には木の色がきれいなグレーに経年変化していく塗料を施し、屋根は空の色を映し込む板金を採用。森に調和する穏やかな佇まいを実現しました。 また、実は苦労したというのが工務店探しだったそう。最終的に取り組んでくれた職人さんたちは、日頃の量産型住宅とは違う手の込んだ現場を楽しみ、ポジティブに挑んでくれたおかげで、ディテールまで美しいモダンさを携えた建物に仕上がったのだといいます。 住み手のご主人は、ここに移住してから早起きしてコーヒーを飲みながら海を眺めたり、裏山を切り拓いて薪を調達したり。周辺がトレッキングコースということもあり「カフェでも始めようか」と、工藤さんも驚くほど暮らし方や表情に変化があったそう。建物も生活も、この地に溶け込む幸せな住まいが誕生しました。
コラム/秀逸なアイデア!設計のハイライトをご紹介
その美しい仕上がりから、「House facing the sea」は一見するとごくシンプルな平屋に思えるかもしれません。端正であることに間違いありませんが、そこには気鋭の建築家のひらめきと工夫が隠されています。 青森県という寒冷地にあって寒さ対策は必須。断熱性の高い高気密住宅という基本性能を確保したうえで、工藤さんが考案したのは建物全体を使って煙突効果を生み出すこと。暖気の通り道は細く、長くとることが煙突効果を上げるポイントであるため、水平に伸びる平屋の中心に真っすぐ廊下を通し、空間は団子状につなぐことで各室の面積も確保しています。 玄関の次の箱がLDKで、ここの暖炉の熱が最奥の扉に流れる設計になっています。暖かさが届きやすいよう個室の仕切りは布張りの引き戸に。ガス暖房も備えてはいますが、暖炉を焚けば十分というからその効果は絶大だったようです。
いかがでしたか?実作を例に、工藤桃子さんの飛躍的な活躍のワケを分析しました。 【Profile】工藤桃子 くどう ももこ/一級建築士。MMA Inc. 代表取締役Architect。 東京生まれ。幼少期をスイスで過ごす。多摩美術大学環境デザイン学科卒、組織設計勤務のち工学院大学藤森照信研究室修士課程修了。 16年に MMA Inc.を設立。建築設計のほか、インテリアデザイン、展覧会の会場構成も手がけている。2020-2022年多摩美術大学非常勤講師。