〈日本農業の技術レベルは高いのか?〉東南アジアの生産現場から見えた日本の“特異さ”、今から導入すべき技術とは
「スマート農業」を進める日本では、ドローンやAIの農業活用がメディアなどで取り上げられ、「日本の農業技術レベルは高い」と感じている人も多いだろう。たしかに、筆者が東南アジアを訪問すると、農業現場に日本の製品を多く見かける。ただ、そのほとんどがトラクターなどの農業機械である。 【写真】日本の農業技術は世界でどう使われているのか これは、日本農業の技術開発や現場での活用がハードに偏っているという状況を物語っていると言えないだろうか?「農業技術」とは、ソフトとハードがそろって、初めて「最先端」と言えると思う。 東南アジアの農家は年齢が若いこともあり、農業用アプリを使いこなしている国も多い。アジアの生産現場から日本の農業技術を検証し、今後の農業のあり方を考えてみたい。
生産向上とトレーサビリティ確保へ技術活用する台湾の農業法人
デジタルトランスフォーメーション(DX)では日本より一歩先を行くと言われる台湾。その首都の台北から車で約1時間もすると、ビニールハウスが続く一帯が現れる。 野菜生産を行う桃城山菜農業生産協同組合だ。この組合は2017年に設立され、14.2ヘクタールの農地と485棟のビニールハウスを持つ大規模法人である。この法人には、アジア生産性機構(APO)の研修の一環で訪れた。 この法人では、主に葉菜類を21人のスタッフで栽培している。スタッフの年齢は、25~45歳と若い。 「これは日本製トラクターです」と若い女性の幹部が自慢げに見せてくれた。「このトラクターが作業しやすいようにハウスを設計した」そうだ。「ハウスの幅をトラクターが耕うんしやすいような形状にした」との理にかなった説明だった。
続いて見せていただいたチンゲンサイやホウレンソウなど軟弱野菜の調製機械も日本製。大量の収穫物を自動で洗浄する。日本の農業機械に対する信頼は高いようだ。 その一方で、灌水システムなどを管理する制御盤には中国語の記載があり、やはり台湾製の機器も普及しているのが伺える。 最新技術の導入は生産時のものだけではない。販売される野菜のパッケージにはQRコードが貼られ、読み込むと簡単に栽培履歴を閲覧できる。産地や収穫時期が示され、消費者は農作物に関する情報をスマホ一つで得られる。これらのソフトは公的な研究・普及機関が開発し、台湾の生産者であれば誰でも無料で利用できるという。 この法人は、デジタルを使った農作業の変革にも熱心だ。クラウドを使った物流管理システム、生産計画システム、在庫管理システムなどを利用している。DX先進地域だけあってハードだけでなく、デジタル化も進んでいるようだ。