「この店はエロゲーのモデルだ!」アダルトゲームメーカーと人気洋菓子店の間にぼっ発した”無断使用騒動”の真犯人
なんらかの作品を創った人は、その「著作権」を有する。自分の考えや想いを作品として表現したのだから、強い思い入れもあろう。だが、「思い入れ」と「思い込み」はまるで違う。 「著作権侵害だ!」と筋違いとも思える訴えを起こすクリエーターも一定数存在するようだ。そうした”エセ著作権”を振りかざし、トラブルに発展した事件を取り上げた一冊が「エセ著作権者事件簿」(友利昴著)だ。 本連載では、ニュース等で話題になった事件も含め、「著作権」にまつわる、クレームや言いがかりまがい、誤解、境界線上の事例を紹介。逆説的に、著作権の正しい理解につながれば幸いだ。 今回は、アダルトゲームメーカーと人気洋菓子店の間に起こった、店舗デザインを巡る”無断使用騒動”とそのてん末を取り上げる。 この騒動、実は両者が直接火花を散らしあったというわけではない。地元紙が、「アダルトゲームが人気洋菓子店の外観を無断使用」との見出しで批判的に報じたことで、”発火”したのだ。 しかし、メーカー側は著作権法に抵触しておらず、洋菓子店をモデルにしたと宣伝したわけでもない。むしろ新聞社が「この店はアダルトゲームのモデルだ」と喧伝したことで、騒ぎになってしまったのだ。「無断使用」は何でも「悪」と決めつける、正義面した迷惑報道の質の悪さたるや……。(全8回) ※ この記事は友利昴氏の書籍『エセ著作権事件簿』(パブリブ)より一部抜粋・再構成しています。
マスコミが「エセ著作権」を振り回しハタ迷惑
著作権は、権利者の私益にまつわる権利だ。したがって、著作権侵害に当たる可能性があるとしても、権利者が問題視しないものを、外野が騒ぎ立てるのは、本来大きなお世話である。 いわんや、影響力のあるマスコミが、「エセ著作権」に基づいて、うかつに無関係の第三者の「無断使用」を責め立てればどうなるか。濡れ衣を着せられた側はもちろん、「エセ著作権者」に仕立て上げられた側にとっても、大迷惑なのである。 2019年、美少女ゲームを制作するユノスは、12月に発売を控えていたアダルトゲーム「喫茶(カフェ)ステラと死神の蝶」の制作にあたり、兵庫県の有名スイーツ店「パティシエ・エス・コヤマ」(以下、「コヤマ」)の店舗外観を参考にして、主人公の働く喫茶店「ステラ」の外観をデザインした。このデザイン画が、ゲーム雑誌に掲載されたことで、発売前からゲームのファンが「聖地巡礼」と称してコヤマを訪ねるなどしていたようである。