ハローワークで「おたくの国は難しいからね」…年収400万円で5人の子育てする「生活と仕事の現実」
習い事や家族旅行は贅沢? 子どもたちから何が奪われているのか? 低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。 【写真】低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」の衝撃! 発売即4刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。 *本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。 ---------- 事例:5人の子と海や山には行けない ウォルデ舞さん 長男(高校生)・長女(中学生)・次男(中学生)・三男(小学生)・次女(小学生) ---------- ウォルデ舞さんは外国出身の夫と20年ほど前に結婚し、今は子ども5人と一緒に7人で暮らしている。夫は工場での仕事をフルタイムで、舞さんは介護の仕事を週に数日している。 ──夫婦で共働きをされているんですね。 そうですね。うちの夫は外国人です。外国人を雇ってくれる会社ってそうそういいところはないんですね。これまで3つ、4つと仕事を変わってきていますけど、やっぱりどこも日本人が好まないところなんですよ。 今は工場で仕事をしています。最初は土曜日が休みだったのが、週6日に変わってしまいました。みんな辞めていくから人が足りないんですね。毎朝7時とかに行って、帰ってくるのは夜の9時とか10時とかです。 夫がハローワークで「おたくの国は難しいからね」って言われたこともありました。最初に転職しようと思ったときなので少し前の話ですけど、今思えばそんな言葉よく言えたなって。でも、実際にそうなんですよね。 ──お二人の給料は結婚された20代の頃に比べて上がっていますか。 変わってないですね。上がることはないと思います。今は彼の手取りが25万円くらいで、ボーナスはありません。会社側もレベルアップする人を求めてるわけじゃなくて、淡々と文句を言わずに作業する人がほしいという感じです。それが嫌なら辞めて、次の人をまた募集して、ということの繰り返しですね。 ──年収にすると夫が300万円、妻が100万円といった感じでしょうか。 大体そうですね。足しても400万円ちょっとしかなくて、それを2で割ると200万円ですよね。うちは子どもが5人いるんですけど、もしひとり親で、収入が200万円で、子どもが2人、3人といたらもらえるような手当が、うちではもらえません。政治家の方たちにはそのあたりが見えていないと思うんです。 コロナのときに収入が減ってしまって、役所の生活保護課に行ってみました。そしたら生活保護を申し込めるレベルだと言われたんですけど、もうちょっとがんばろうと思って、そのときはやめました。 ──生活保護のことを考えたのはコロナのときが初めてでしたか。 いえ、ずっと考えてますけどね。うちの夫が死んだら(役所に)行かなきゃと思ってます。 ──先ほどハローワークでの話がありましたが、5人のお子さんたちがこれまで育ってきた中で、周りから差別を受けるような経験はありましたか。 保育園のときに「肌の色がどうしてそんなに黒いの?」と言われるようなことは、どの子も1回はありましたね。 ただ、このあたりは外国人が比較的多い地域で、学校にも色々な国の子がいるんです。うちの子たちは肌の色では目立ちやすいですけど、その中で子どもたちも慣れてるというか。 あとは、夫が日本語がそんなにできなくて、漢字とかもそんなに書けないので、子どもたちの書類関係は私が全部やらなきゃいけないですね。 ──きょうだい同士の仲はどうですか。 テレビで見るような仲良しの大家族という感じではないです。子どもたち同士の組み合わせによって仲が良かったり悪かったり。面倒を見るというほどではなくても、私が買い物に行くときに上の子が下の子をちょっと見てくれてるとか、そんな感じです。 つづく「子どもの誕生日が集中する時期は出費が増えてつらい…5人の子どもに対する「お金の使い方の困難」」では、5人の子どもをもつ家庭ならではの出費のリアルに迫る。 本書の引用元『体験格差』では、「低所得家庭の子どもの約3人に1人が体験ゼロ」「人気の水泳と音楽で生じる格差」といったデータや10人の当事者インタビューなどから、体験格差の問題の構造を明かし、解消の打ち手を探る。
今井 悠介(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事)