親の「悪いところがないから大丈夫」は鵜呑みにしない【親を要介護にさせたくない】
【親を要介護にさせたくない】#1 私の母は現在90歳。若い頃は女学校まで片道1時間以上の山道を歩き、85歳まで実家で1人暮らしを続け近隣を何キロも歩くほど元気だった。しかし今は要介護度4。日常のほとんどが車椅子生活となり、認知症も急速に進行。特別養護老人ホームで暮らしている。 高齢なのでいつかはこんな日が来るかもと覚悟していたけれど、「もっと早く〇〇しておけば」と思うことが多々あった。その最たるものが、息子として母の健康状態をどれだけ把握していたかという点だ。 母の介護問題が一気に進んだのは、散歩中に尻もちをつくように転んだことがきっかけだった。その時は何とか自力で自宅に戻ったものの、痛みが取れないとSOSの電話があり、病院に連れて行ったところ、腰椎の圧迫骨折をしていた。その際、医師から--。 「骨密度検査したところ、同年代の人と比較すると70%くらいしかありませんでした。血圧もちょっと高めですし、今後はしっかり経過観察していきましょう」 と告げられ、私は少なからずショックを受けた。 母はいつも健康に気を使い、骨粗しょう症対策として小魚や牛乳を積極的に取り、骨を強くする食事をしていると話していたからだ。要するに、本人の思い込みによる「自称健康人」だったわけで、しっかり検査を受けたこともないのに、「毎日歩いているから足腰は丈夫」「牛乳とカルシウムを毎日食べているから骨も丈夫」のように考えていたわけだ。 高齢者の思い込み的な思考はよくあることだが、たとえ本人に何らかの不安要素があったとしても、子供に心配かけたくないからと口に出さない。自称健康人ほど病院に行きたがらず、健診を受けても結果をしっかり理解できない(医師の忠告を聞き流している)ため、病気やケガに至ってしまうこともある。 事実、圧迫骨折判明後に主治医と深く話をしたところ、もっと早く骨粗しょう症がわかっていれば、投薬や注射による骨の強化もできたし、入院などで認知症が進むリスクも抑えられたのでは、との話もあった。 参考までに、2019年の「国民生活基礎調査」(厚生労働省)では、介護が必要になった(介護認定された)人の原因トップ3は男性が脳血管疾患、認知症、高齢による衰弱の順。女性は認知症、骨折・転倒、高齢による衰弱の順だった。 母は5年前の骨折により介護問題が一気に進行した。高齢の親の健康に関する言葉は鵜呑みにしない。離れて暮らしているなら、なおさらだ。タイミングを見て、「本当に健康?」と確認するべき。ただし、しつこく言い過ぎるとうるさがられ、本当のことを言わなくなる可能性もあるので、あんばいも大事。 (西内義雄/医療・保健ジャーナリスト)