井浦新の出演作はなぜ“特別“なのか? 名作『アンナチュラル』などから読み解く存在感を解説。稀有な魅力の正体とは?
井浦新が魅せた2つの愛の形
『アンナチュラル』は不自然死究明研究所(UDIラボ)という架空の研究機関を舞台に、死因不明の遺体の死の真相に迫るヒューマンドラマだ。 井浦新が演じたのは、ラボの中でも屈指の解剖実績を持つ法医解剖医。無愛想で口も悪く自己中心的で他人と相容れようとせず、挨拶も満足にできない社会不適合者。中堂と組んだ者は精神的に追い詰められすぐに退職してしまうという最悪な人間だ。 しかしその裏には、最愛の恋人を連続殺人犯に殺され、その復讐のために生きているという、目を覆いたくなるような過去を抱えた男なのだ。ともすれば、非現実的な「キャラクター」になりすぎてしまうこの役を井浦新は「この世界に存在する人物」として落とし込んでいた。9話「敵の姿」で、恋人の遺体を自らが解剖するシーンは涙無しでは決して見られないだろう。 一方『最愛』は、同級生でありながら連続殺人犯の容疑者とそれを追う刑事の関係性になってしまった2人の関係を中心に描かれるサスペンス。 井浦新が演じたのは、容疑者となってしまった女性社長の会社の弁護士。彼女が会社を立ち上げる以前から陰で支え続けている優しい男だ。 しかし、誰にも話すことのできない「業」を抱えており、ドラマのタイトルである「最愛」を良くも悪くも最も体現した人物として、視聴者に大きな衝撃を与えた。この役も「優しさゆえに犯した罪を最後まで誰にも知られずにやり遂げる」という複雑な役を井浦新は絶妙な温度感で見事に演じきった。
井浦新が魅せる究極の二面性
映画最新作『徒花-ADABANA-』でも重い病を患い死期が迫った男・新次と、彼の「クローン人間」の1人2役という難解な役を演じている。 インタビューでも、「新次は、自分の内側から湧き出してくる俗物を演じたいという思いがありました。一方の“それ”は、粘菌や植物のイメージ。植物プラントのような人工的な空間で生のすべてを管理されて育てられたものをイメージしました。現場では、今申し上げたイメージを元に、内から出てきたものに従うようにして役を演じました」と語っているように、同じ人間が演じているはずなのに2人に受ける印象はまるで違う、まさに井浦新にしかできない役だと感じた。 いつまでも井浦新の演技をこの目で見ていたい。できることなら永遠に脳内に「井」「浦」「新」の字を刻み込みたい。そう思っている。 (文・かんそう)
かんそう