井浦新の出演作はなぜ“特別“なのか? 名作『アンナチュラル』などから読み解く存在感を解説。稀有な魅力の正体とは?
現在放送中の菜々緒主演ドラマ『無能の鷹』(テレビ朝日系、2024)に出演し、10月に公開された映画『徒花-ADABANA-』では主演を務めた井浦新。今回は、陽だまりのような役から、冷たい印象の役まで幅広くこなす井浦新の魅力を、これまでの出演作品を振り返りながら徹底解説する。(文・かんそう) 【写真】井浦新が特別である理由は…? 貴重なグラビアカットはこちら。スペシャルグラビア一覧
映画『蛇にピアス』が与えた鮮烈な印象
ドラマ『無能の鷹』で鷹野ツメ子の教育役・鳩山樹を演じている井浦新。 何をどう考えても無能の鷹野に対しても決して怒ることなく長所を伸ばそうと苦心するまさに「優しさの塊」としか言いようがない男を演じているのだが、井浦新にピッタリな役だと感じると同時に、まったく別の人間にも思える。それが本当に恐ろしい。 日だまりのように温かい役から、氷のように冷たい役まで完璧にこなす、その幅の広さに目眩がしてくる。井浦新の魅力を改めて考えたい。 私が初めて井浦新、いや、まだ英語表記で活動していた「ARATA」完全に認識したのが2008年公開の映画『蛇にピアス』だ。全身にタトゥー、顔中にピアスを纏わせ、他人が苦しむ顔に興奮するサディストの彫り師・シバという役柄は、当時19歳の若者だった私にとてつもない衝撃を与えた。 文字にすると「異常」としか思えないその男を、ARATAは恐ろしいほど完璧に演じていた。恐怖の中に見え隠れする普段、普通に生活していたら絶対に出会うはずのない男に圧倒的な「リアリティ」を感じてしまったのだ。
スクリーンを支配する「異質な存在感」
しばらくは「A」「R」「T」のアルファベットを見るだけで震えが止まらない日々が続いた。しかし、それを超える衝撃が私を襲った。2010年公開の映画『君に届け』。原作の大ファンだった私は、君に届けの実写化に一抹の不安を覚えながらも、もちろん劇場に足を運んだ。そして、映画は個人的には大満足の出来だった。 主演を務めた多部未華子(黒沼爽子役)、三浦春馬(風早翔太役)はもちろんのこと、蓮佛美沙子(吉田千鶴役)、夏菜(矢野あやね役)、桐谷美玲(胡桃沢梅役)、青山ハル(真田龍役)と周りを固めるキャストもピッタリで、役者の瑞々しさと原作の持つ雰囲気が合致した、まさに実写化の成功例とも呼べる作品になったのではないだろうか。 そして何より担任教師・ピンこと、荒井一市を演じたあの男。自己中心的に見えて実は生徒のことをよく見ているあの癖のあるピンをよくここまで実写に落とし込んだな…原作のような豪快なガサツは現実的なレベルに抑えつつ、あの魅力的なキャラクター性はしっかりと表現されている、誰だ?この俳優は…。 目を疑った…真夏の太陽のように明るい男を演じていたのは、そう、蛇にピアスで狂気の男を演じたあのARATAと同一人物だった。 それからというもの、出演「ARATA」そして改め「井浦新」と名がつく作品はほとんどチェックした。映画はもちろん、ドラマでもその存在感はまさに「異質」。 井浦新が画面に登場するだけで「なにかある」と思わせられてしまう唯一無二の雰囲気を持っていた。そんな井浦新の出演作の中でも、私が特に魅力的だと感じたのはドラマ『アンナチュラル』(TBS系、2018)の中堂系、そしてドラマ『最愛』(TBS系、2021)の加瀬賢一郎だ。