『孤独のグルメ』が放送12年目に大変化…!「飯テロドラマ」の新企画が賛否両論のワケ
主演・松重豊の負担を半減させたい
『それぞれの孤独のグルメ』のもう1つのメリットは、松重の負担を半減させ、休ませられること。 松重は来年1月19日で62歳を迎える。『孤独のグルメ』スタート時はまだ40代だっただけに、これだけ食べる仕事に対する体調面での不安は避けられない。どんなに人間ドックの結果がよくても負担を減らすのは、自他ともに当然の配慮であり、今後も長く続けていくためにいくつかの策が実施されていくのではないか。 また、あまり知られていないが『孤独のグルメ』は2022年と2023年に配信オリジナルシリーズにもトライしている。第1弾は井之頭五郎のホロ苦いエピソードを描いた『孤独のグルメ~美味しいけどホロ苦い…井之頭五郎の災難~』をPravi(現U-NEXT)、ひかりTVで、第2弾は若手芸人たちとコラボした『孤独のグルメ配信オリジナル2 五郎、芸人まみれ』をParavi、Leminoで、各6話を配信した。 第1弾のとき松重は「これまでのシーズンに飽きた方、もしくはアンチの方はぜひ」などと語り、ファンには通常のシリーズを勧めていた。もちろんこれは笑いを誘う意図もあるが、やはり「マンネリを避け、可能性を広げよう」という長期シリーズならではの狙いがうかがえる。 いずれにしてもこれらの企画は、人気シリーズだからこそ「配信で稼ごう」としていることの証であり、制作サイドは松重に配慮するだけでなく、低予算で最大限の収益を得る工夫を重ねているのは確かだ。 これまでドラマでシリーズを重ねてきた作品だけに、映画版がヒットすれば当然ながら第2弾も制作されるだろう。何より松重自身、「俳優の前に監督になりたかったと40年ぶりに思い出した」「やっぱりモノをつくることは面白い」などとコメントしているだけに、まずは年明けの結果が試金石になりそうだ。
テレ東が「飯テロ」を量産できる訳
最後に話をテレビ東京の「飯テロ」ドラマ戦略全般に移すと、『孤独のグルメ』という強烈なコンテンツを持っているからこそ、積極的に仕掛けながら試行錯誤を重ねることができた。 女性が一人で食事を楽しむ『ワカコ酒』『ひねくれ女のボッチ飯』『晩酌の流儀』、外食ではなく家での食事にスポットを当てた『きのう何食べた?』『新米姉妹のふたりごはん』『侠飯~おとこめし~』、お取り寄せグルメをフィーチャーした『先生のおとりよせ』『よだれもん家族』。 その他でも、絶滅しそうなメニューをめぐる『絶メシロード』、激辛料理に挑む『ゲキカラドウ』、美女たちが高級バーガーを食べる『女子グルメバーガー部』、ご飯に合うおかずを追求する『しろめし修行僧』、失恋を忘れるために美食を追い求める『忘却のサチコ』、タクシーで町中華をめぐる『ザ・タクシー飯店』などのグルメドラマを量産してきた。 『ワカコ酒』や『晩酌の流儀』のようにシリーズ化、『きのう何食べた?』のように映画化されたものもあるが、それでも『孤独のグルメ』ほどのシリーズ量産や低費用高収益化には至っていない。「さすがテレビ東京」と言うべきか、各作品のクオリティは総じて悪くないだけに、「『孤独のグルメ』という究極のグルメドラマを最初に作った」ことの裏返しではないか。 ただ、その「『孤独のグルメ』が健在だからこそ、他局の追随を許さず「飯テロ」ドラマを量産できる」ことも確かだ。 テレビ東京としては、それがわかっているからこそリスクを承知で、『それぞれの孤独のグルメ』や配信オリジナルシリーズ、映画版などの変化を加えていけるのかもしれない。 ともあれ、『孤独のグルメ』の通常シリーズが、庶民的な価格とムードの店を発掘し続け、松重が健康体で食べ続けられる限り、5年、10年とシリーズが続いていきそうなムードが続いている。
木村 隆志(コラムニスト/コンサルタント)