トランプ再臨で“損切り”される韓国… 焦って中国側に走るのか
「Quad参加はお断り」
――尹錫悦大統領がトランプ大統領に直訴すれば……。 鈴置:石破首相よりはトランプ氏との相性はましでしょうが、尹錫悦政権も「従中」と米国から見切られています。2022年8月、ペロシ(Nancy Pelosi)米下院議長が台湾訪問後に日韓を訪れた際、尹錫悦大統領は夏季休暇中を理由に面談を断りました。もちろん、中国の怒りを恐れたのです。 保守系紙から批判されたので急遽、電話で会話しましたが、却って中国への忖度が目立つ結果となりました。同じソウルに居ながら会わずに電話で話したのですから。 このエピソードは『韓国消滅』第3章第2節「従中を生む『底の浅い民主主義』」で詳述しています。「米下院議長から逃げた尹錫悦」という小見出しのくだりです。 ――保守の尹錫悦政権も米国は信用していないのですね。 鈴置:その通りです。2024年4月10日に尹錫悦政権はQuad(日米豪印戦略対話)とAUKUS(米英豪の安全保障の枠組み)への参加を表明したのですが、米国からやんわりと断られています。 いずれの枠組みも中国を牽制するのが目的で、韓国は中国の怒りを恐れて参加には消極的でした。しかし、Quadの創業メンバーである日本がAUKUSの準メンバーになることまでが決まったため、さすがにまずいと思ったのでしょう。 ただ、保守政権さえペロシ議長から「逃げた」韓国は信用されません。下手に対中包囲網の枠組に韓国を入れれば、機密情報が中国に駄々漏れになると米国が懸念するのは当然です。 「Quadへの参加拒否」は韓国でも日本でもきちんと報じられていませんが、日本の安全保障を考えるうえで決して見落とせない事実です。『韓国消滅』第3章第2節の小見出し「Quad参加はお断り」の項を参照下さい。
韓中は利害が一致
――韓国はトランプ由来の「四面楚歌」をどう打開するのでしょうか? 鈴置:ハンギョレはトランプ再執権を中国と手を組むチャンスにしよう、と訴えました。社説「朝鮮半島の安保のために、韓国は『中国レバレッジ』を積極活用すべき」(11月17日、日本語版)です。 ・北朝鮮とロシアの軍事協力について、韓国と中国に温度差があるのは確かだ。しかし、朝鮮半島の緊張の高まりを望んでいないのは中国も同じだ。 ・トランプの復帰と、それに伴う「関税爆弾」とデカップリングの脅威の中、中国も韓国との協力の必要性を感じざるを得ない。このような状況を積極的に活用して接点を増やしていく必要がある。 ・韓国は、トランプ2期目で予想される米国の対中圧力状況を、むしろ韓中関係改善の契機とする妙を発揮しなければならない。 要は、トランプ政権のデカップリング政策により、サプライチェーンが分断されるのは韓中共に迷惑だ。韓国は中国と手を携えて米国に反対すればよい。ロ朝の急接近は中国も不快に思っている。この点も韓国と一致する。対北・対ロ牽制で韓国は中国と組めばよい――との主張です。 ――そんなにうまく行くものでしょうか。 鈴置:この主張は「絵に描いた餅」的なところがあります。例えば、次期トランプ政権は半導体の分野でも中国包囲網を強化する可能性が強い。 半導体やその製造装置の対中輸出はさらに厳しく規制し、韓国に対しても当然、同調しろと命じるでしょう。その際、韓国は「我が国の半導体産業は中国と完全に一体化しているので、命令には応じかねます」と拒絶できるのでしょうか。 もっとも、米国の要求を受け入れるのもつらいのは事実です。半導体は韓国の基軸産業であり、輸出の2割前後を占めます。その過半が中国向けです。