地球観測衛星は元日の能登半島地震をどう見たのか? - 衛星リモセンの必要性
そして気象条件に加えて、少子高齢化と人手不足という課題も衛星リモートセンシングの利用を進めなければならない理由だという。被災状況の確認にしても、「2000年から20年間で1000万人以上の生産年齢人口減少、1年あたりにすると50万人以上が減ってきている状況が続いているわけです。今までは車に乗れば、あるいは飛行機やヘリコプターでできていたことが今後はできなくなってくる、もしくは対象となる場所を選ばなくてはならない状況が生まれると考えられます。南海トラフ巨大地震のような、中部地方から九州まで広いエリアで激甚な被害が想定される災害が起きた場合には、天候が良かったとしても、飛行機やヘリコプター、ドローンだけでは調査のリソースが不足することが想定されます。そういった場合に広域を観測できる衛星データは、SARであれ光学であれ、活用を進める必要があると考えています」と吉田参事官は分析する。 衛星リモートセンシング利用の推進にあたって期待されるのが、衛星そのものの発展だ。6月30日にはだいち2号の後継機である「だいち4号(ALOS-4)」が打ち上げられる。だいち2号は観測幅が50kmで、能登半島観測の際には東西に観測範囲から外れたエリアが一部あったのに対し、だいち4号は観測幅が200kmと飛躍的に大きくなる。つまり取りこぼしが減るだけでなく、日本全域の平時の姿を撮りためて災害に備える観測の機会も年間20回と、だいち2号の4倍近くに増える。また、QPS研究所、Synspective、アクセルスペースなどは衛星の数、機能を増強しているさなかで、観測機会が増していくばかりでなく、高精細に変動をとらえられる干渉SAR機能に対応するといった機能面での進化も期待できる。 一方で、JAXAの衛星データ公開や防災クロスビューといったデータ公開によって、衛星データに触れる機会を増やして、ハードルを低減し、解析に馴染む人を増やす取り組みや、知見の共有も必要だ。吉田参事官は、水防災の専門家として2011年に紀伊半島大水害を観測したドイツの商用SAR衛星「TerraSAR-X」の画像を利用した際の経験と、実際に扱ったからこその“コツ”をこう振り返る。 「SAR衛星は、電波を斜め方向から照射して観測するために画像も斜めになっているわけですが、それを地図に合うように補正する『オルソ化』の処理をします。そうすると解像度が少し下がってしまう傾向があるので、『オルソ化せずに生で見るのが良い』といった意見を聞いたことがあります。ですが指示通りにしてみても、道路や集落がどう重なっているのかといったことがわからなければ、災害時に重要な場所と優先順位の低い場所を区別することもなかなか難しいのですね。解像度が多少下がったとしても、やはりオルソ化も2時期の比較も行い、地図と重ね合わせて見た方が、防災関係機関としては使いやすいと感じていました」とのこと。データ公開を核にして、こうした知見がSNS等を通じて集まってくる効果も考えられる。 ただし、知恵を共有するツールとしてのSNS利用には注意も必要だ。吉田参事官は「災害時・災害直後に“リアルタイム”で活用される場合、特にSNSでの発信などの際はSARの特性から生じる『偽陰性』『偽陽性』などの現象がおこることも念頭に留意して扱っていただくのが良いと思います」と話す。SARの電波の特性や地形によって地上の変化を過大に、あるいは過小に見積もってしまうことは完全には避けられないため、複数のデータをかけ合わせて裏付けを得る、不明点を明らかにして情報を公開するといった配慮をすべきだろう。「衛星だから」無条件に正確な情報ソースになるというものではないが、誰でも自由に触れられるデータがあれば、人手不足の中で大きな災害が発生する場合にも自発的にデータ解析に挑む人々が育つ下地となることに変わりはない。 ■ 秋山文野 あきやまあやの フリーランスライター/翻訳者(宇宙開発) 1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経て宇宙開発中心のフリーランスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。
秋山文野