地球観測衛星は元日の能登半島地震をどう見たのか? - 衛星リモセンの必要性
こうしたさまざまな観測で、衛星画像と衛星画像をかけ合わせることで現地の詳細が判明している状況がある。のと里山海道の場合、だいち2号の画像には1月1日深夜の観測ですでに斜面崩壊と考えられる箇所が観測画像に含まれている。衛星にはそれぞれ得意不得意があり、だいち2号は広域(観測幅50km)を捉えることができ、分解能は3mだが波長の長いLバンドの電波を利用するため、樹木や植生の影響を受けにくく、山間地の多い日本で地盤の変位を正確に把握することができる。 一方QPS研究所の衛星は、観測幅は7kmと狭いものの波長の短いXバンドを利用し、最大で分解能46cmと高精細な観測ができる。今回の能登半島地震では衛星の得意分野を使い分け、1月1日のだいち2号画像から被災箇所と判読されたエリアを、高分解能のQPS研究所の衛星が観測するという役割分担が成立した。画像は1月6日にQPS研究所が観測した場所で、のと里山海道の東側から迫る土砂と損傷した道路がわかる。同じ場所をパスコが提供する海外の光学衛星が日中にとらえており、衛星どうしで補完することで、現地の状況がより詳細にわかるようになった。
そして国土地理院は、1月2日以降に航空機による観測を何度も行って、地上に近い航空機ならではの高精細な現地の様子を撮影し、ウェブサイトで公開している。状況の判読性という点では、衛星よりは航空機のほうが上だ。それでは、複数の衛星で被災状況を観測したり、そのデータを広く公開したりといった今回の取り組みは、何につながっていくのだろうか?
衛星による観測がいつか不可欠になる理由とは
■いずれ訪れる人手不足下での災害にむけて 内閣府が令和2年から開催している「衛星リモートセンシングデータ利用タスクフォース大臣会合」では、衛星リモートセンシングデータの利用拡大を重要な宇宙政策のひとつと位置づけている。災害が激甚化する中で被害を最小化することを目的に、多様な衛星を一元把握し、広域被災状況を最短2時間程度で提供可能とする「衛星ワンストップシステム」が開発され、地震だけでなく水害などでも利用されている。 災害発生時の被災状況把握にとって重要なのが「いつ・どこを観測するべきか」の意思決定だ。地震の場合、斜面崩壊や地割れといった被害の詳細がどこで発生しているのか、道路やインフラといった重要な施設に影響している状況があるのか、いち早く知る必要がある。高分解能の衛星に“どこ”を指示するだけでなく、航空機観測の計画策定にもだいち2号のような広域を観測できる衛星のデータが役に立つ。 国土交通省 国土技術政策総合研究所の水防災システム研究官であり、内閣府 宇宙開発戦略推進事務局を兼任する吉田邦伸参事官は、今回の能登半島地震は冬の北陸地方という状況で、例外的に航空機観測が利用できた状況だったと指摘する。 「1月2日の石川県地方はわりあい天気が良かったため、ヘリコプターや飛行機がかなり飛ぶことができ、リアルタイムに近い状況を撮像することができました。ですから現場で活動していたチームも航空写真や航空映像を利用できたということになったのだと思っています。ただ、やはり冬の日本海側で天気が良い状況というのは、確率的にかなり低いのです。悪天候が続いていた場合には、SARによる繰り返し観測によって状況を把握するということがかなり有効な手段になったと思います。」(吉田参事官)