〝視線〟で描いた絵がTシャツに 素早く動かすと細い線、ゆっくりで太く 寝たきりの男性とアパレルの合作
野球が好きだった子ども、病気で寝たきりに
大地さんの母親の千夏さんによると、大地さんは11歳の頃に、副腎白質ジストロフィー(ALD)と診断されました。診断された当時は野球の好きな活発な子どもだったといいます。 小学5年の夏ごろに、宿題や授業のノートの字が乱れがちになったり、算数と国語の授業についていけなくなったり……といった困りごとが出てきました。勉強する環境や必要な配慮について相談をしにいった教育センター では、学習障害だと判断されたそうでしたが、その後、斜視の症状が目立つようになりました。病院で検査を重ねた結果、ALDだとわかりました。 ALDは進行性の指定難病で遺伝性の病気です。小児で発症すると、徐々に知能や視力、聴力が低下、斜視や歩行時に足がつっぱるなどの症状があるといいます。現在では 、早期発症や症状が出る前なら 骨髄移植などによって治療ができる可能性もある病気です。 ALDとわかったときには、大地さんはすでに視力が落ち、視野も欠けていました。医師からは「これから目が見えなくなり、歩けなくなり、話もできなくなる」と告げられました。その日は12月21日 。母の千夏さんは4日後のクリスマスプレゼントに野球のスパイクを用意していましたが、渡せずにいました。 「病気だから仕方がないとあきらめなくてはいけないことが増えていくのか」「こんな残酷な病気ない」――。千夏さんたち家族はやるせのない思いを持ちながらも、千夏さんの記憶の中の大地さんは「めったに弱音を吐かなかった」と言います。 「元気なうちに行こう」と東京へ旅行に行ったり、大地さんの好きなチョコレートのケーキを食べたり「これからできなくなったり難しくなってしまうこと」を一つひとつ叶える日々を送りました。 しかし、診断から1年経つと、転ぶことも増えて歩くことも、話すこともできなくなり、バギー型の車いすで寝たきりの状態になりました。 身体を動かす範囲、コミュニケーションのすべが減ってしまっても、大地さんは、好きなアニメを見るときや、家族やその近くにいる人が会話してるそばでは手を上下させたり、何度もまばたきをしたり、感情を表現します。