結城真一郎が語る超難易度の推理小説『難問の多い料理店』。フードデリバリーには日常の謎が詰まっている!?
累計販売20万部を突破し、「2023年本屋大賞」にノミネートされた『#真相をお話しします』でも話題を集めた作家・結城真一郎が、新作『難問の多い料理店』を6月26日に上梓した。今作の舞台は、デリバリー用のさまざまな店を1つのキッチンに集約させた「ゴーストレストラン」で、そこに出入りするさまざまなワケあり配達員たちを描く。 【写真】結城真一郎氏 配達員たちの目的は、通常のフードデリバリーに加えてオーナーのとある「指示」に従うと支払われる高額報酬。その代わりに、オーナーの元にはさまざまな事件の謎とカギが集まってくる。そうして6編の事件の謎を解いていくのが今作なのだが、解いたはずの事件が別の事件に関係していくこともあり、その難易度は前作『#真相をお話しします』をも超えるとか超えないとか。そんな推理力を試される今作について、作者の結城真一郎氏に話をうかがった。 *** ■フードデリバリーは、よく見かけるけど得体の知れない要素を孕んでいる ――今回の『難問の多い料理店』は「小説すばる」での連載をまとめたものですが、そもそも連載が始まった経緯は? 結城 小説すばるの編集部から「小説を書いてください」という依頼をいただいて、その上で「連作短編みたいな形がいいんじゃないか」というお話になって。他にも進行中の原稿があったので、3か月おきぐらいのペースで定期的にやろうという話になりました。その時は、最初とラストが決まっていて、その間の展開はまだ何も決まっていませんでしたね。 ――編集部から内容についてのオーダーは? 結城 特にオーダーはなかったんですけど、「何かしら今の時代を切り取るようなモチーフを入れたいですよね」っていう話は出ましたね。 というのも、少し前に「日本推理作家協会賞」で短編の賞を受賞させていただいて(『#真相をお話しします』に収録されている「#拡散希望」にて)、それはYouTuberが登場する話で。選考委員の先生方が作品の現代性みたいなものをすごく推してくださっていたので、「今回の作品もそういう現代的なモチーフを入れてやりませんか」っていう、たぶんそんな流れの話だったように記憶しています。 ――今の時代を象徴するものっていくつかあると思うんですけど、その中でも「ゴーストレストラン」と「ビーバーイーツ」という、フードデリバリーの配達員を題材にしようと思った理由は? 結城 連作短編という形になると、それを受け入れられるだけの度量があるモチーフが必要になってきます。『#真相をお話しします』でも、YouTuberとかマッチングアプリといった今を象徴する題材を扱っていて、それらもいいテーマではあったんですけど、連作として使うにはちょっと器が小さい気もしていて。 そういうことを考えていたときに、実際に店舗というものが存在していて、そこにいろんな配達員が出入りする「ゴーストレストラン」の仕組みであれば、連作短編という枠組みの中にいろんなアイデアを入れられるんじゃないかなと思ったんですよね。 ――今作は、探偵役でありゴーストレストランのシェフでもある、謎に包まれたオーナーが全話に共通して登場しますが、彼が主人公というわけではないですよね。 結城 そうですね。主人公はやはり、語り手の配達員たちになるんじゃないですかね。全話に共通して出てくるのはオーナーなんですけど、やっぱり彼は物語の象徴みたいな感じで主人公ではない。読者の皆さんには、作中に登場する配達員たちと一緒に謎解きを楽しんで欲しいです。