結城真一郎が語る超難易度の推理小説『難問の多い料理店』。フードデリバリーには日常の謎が詰まっている!?
■シェフなのか探偵なのか、善人なのか悪人なのか、解釈の余白を多くしたかった ――さっきもお話にあったように、探偵役としてシェフ兼オーナーという人がいて、彼は基本的に現場には行かず、配達員たちに事件の情報を集めてきてもらって謎を推理していく。この形式にも新しさを感じました。 結城 そういう形式の探偵モノはよく「安楽椅子探偵」って呼ばれるんですけど、スタイルで言うと多分それに近いですよね。探偵は椅子から動かず、助手が情報を集める。 ただ、ミステリの探偵役と助手役ってたいてい師弟関係とか友達とか、ツーカーな関係が多いですよね。その点、今作は料理人と配達員という一期一会の間柄で、そこにまったく深い関係性はない。 配達員も最初は高額報酬が欲しいだけなのに、ちょっとずつ「このオーナーって何者なんだろう」って気になっていく存在で。探偵役と助手役のそういう距離感こそが現代的を象徴するものだと思いますし、それによって過去にあまり例がないミステリ作品になったんじゃないかもと思っています。 ――なぜ探偵役と助手役のそういう距離感を選んだんですか? 結城 僕が最初に思い描いていたのは、名探偵が唯一無二の解答を叩きつけるものではなくて、依頼人に一番耳障りのいい解釈をくれる存在がいるような作品で。そういうスタイルの推理小説って珍しいだろうなって思ったんです。そこに、現代的な要素としてフードデリバリーを取り入れて、いろいろ肉付けをしていったら、さっきも言ったような独特の距離感になったんです。 配達員側の視点で見ると、やっぱりブログなどを読む限り、配達員にもいろんな事情があるみたいなんです。当然、前向きに配達員をやってる人もいれば、やむなくやらざるを得ない人も結構いるらしい。そういういろんな事情を抱えてる人たちを複数、作品に登場させた方が面白くなるだろうし、リアルだし、わざわざそう設定した意味があるなと思ったんです。 オーナー側からの視点でいうと、実はこの作品自体の「最終的な謎の答え」というのはあえて明らかにしたくなかったんです。最後の謎がどういう意味なのか、オーナーというのは何者なのか。それって結局誰かの解釈に過ぎないし、そこも読者たちに委ねようと思ったんです。 彼がシェフなのか探偵なのか、善人なのか悪人なのか。そういういろんな解釈ができる余白を極力多くするために、彼自身のパーソナリティーはほぼ描かないという形に落ち着いたんですね。