結城真一郎が語る超難易度の推理小説『難問の多い料理店』。フードデリバリーには日常の謎が詰まっている!?
――ミステリ作家として、フードデリバリーの配達員に魅力を感じますか? 結城 それはすごい感じますね。いつからか急速に街中で見かけるようになった一方で、副業でやられている方も多くて、実際のところ彼らって普段何してるのか結構分からないですよね。そういう、よく見かけるんだけど得体が知れない「日常の謎」みたいな要素を孕んでいるので、ミステリとフードデリバリーは親和性が高いなと思ってました。 ――登場する配達員も、ライターや芸人と兼業している人や、学生、シングルマザーとさまざまな「表の顔」を持っていて、そのパーソナルな部分も意外とストーリーの重要な要素になっています。 結城 だからこそリアリティが出ると思うし、配達員をやってない身からすると、配達員の中には1パーセントぐらい、作中に出てくるような闇バイトをやってる人が本当にいるんじゃないかっていう可能性を捨てきれないんですよね。もちろん作品はフィクションだし、こんな闇バイトなんて99パーセントあり得ないんですけど。 今まで100人の配達員に会ってきたとしたら、1人ぐらいはこういうことやっててもおかしくないかも、みたいなそういう不気味さ。あるいは日常との距離感。そういうところは特に意識したポイントです。 ――結城さんは配達員を経験してないんですか!? 結城 それくらいに思っていただけるのはすごい嬉しいですけど(笑)、実際は1回も配達したことはないです。基本的には、実際に配達員をされてる方のブログとか、そういう方が出されてる本を読み漁って、「配達員ってこういう仕事なんだ」「こういう問題があるんだ」「こういうところを鬱陶(うっとう)しいと思うんだ」みたいなことを集めていって、ストーリーに反映させていく感じですかね。 ――先日も、テレビ番組で「芸人さんが闇バイトに誘われたら断れない説」みたいな企画がありました。実際にそういう闇バイトをやった人に取材をしたんですか? 結城 いやいや、直接ストーリーのヒントになるようなことは全くなくて、こういうことが起きてたら面白いよねっていう想像ではあるんですけど、ただ、おそらくこれまでに摂取してきたいろんな要素がこういう形にまとまったんだと思います。 特に今、闇バイトっていう言葉が市民権を得始めていて、ちょっとした拍子で高額報酬に釣られて仕事がグレーな領域に入っちゃう瞬間って実際に結構あると思いますし。 かといって、「そういう世間に警鐘を鳴らしたい」とかそういう思いは1ミリもなかったんです。でも、そういうことが身近になってきて、結果的にすごく現代的な作品になったなと思いますね。