結城真一郎が語る超難易度の推理小説『難問の多い料理店』。フードデリバリーには日常の謎が詰まっている!?
――これまで話してきた現代性の取り入れ方や、登場人物やストーリーの組み立て方については、何かの影響があったんですか? 結城 これはよく聞かれるんですけど......好きな作家さんはもちろんいますけど、「この方のこの部分がすごく気に入ってる」みたいなことは全くないんです。 ――そんな中でも、あえて影響を受けた作品をお聞きするなら...? 結城 (笑)。それで言うと、映画『バタフライ・エフェクト』や『スラムドッグ$ミリオネア』は好きですね。いろんな要素が作品の中に登場するけど、それらがひとつの結末に向かって収束していって、最後は「なるほど」と思える。ああいう作品が自分は心地いいなと思いますね。 他にも『ユージュアル・サスペクツ』とか、いわゆるどんでん返しがある作品は好きで、そういう意味では影響を受けているのかもしれません。 ――今回は事前に書店向けに行っていた告知に「謎解き難易度上昇」と書かれていましたが、これから謎解きを楽しむ読者にはどういう期待をしていますか? 結城 それは読者のみなさま次第だと思っていて、純粋に何も考えずにオチまでストーリーを楽しみたい人もいれば、自分なりに推理したい人もいるでしょうし、どういう風に読んでいただいても構わないです。 ただ、この物語の設定上、今作のオーナーの元に持ち込まれる事件というのは、誰かが10万円支払ってでも解いてほしい謎ということになっています。そうなってくると、一般の人がすぐ解けるような謎ではダメなわけで、それ相応の難問にしたつもりです。......って自分でハードルを上げて、毎回ヒーヒー言ってるんですけど。 ――そういう時はどうしてるんですか? 結城 何かが降ってくるのを信じて考え続けるだけですね(笑)。机とかパソコンに向かうんじゃなく、よく街を散歩しながら考えてます。意外と体育会系なんですよ。 ――今作『難問の多い料理店』が刊行されて、結城さんの今後の展望は? 結城 引き続き、この今の時代を切り取って、同時代の人たちを楽しませる路線はもちろん維持していくつもりなんですけど、それだけをやり続けるとやはり食傷気味になりますし、そんなにネタも多いわけじゃないので。それらを走らせながらも、やっぱり普及の名作的な路線のものを書いていきたいと思ってます。 秋から「小説新潮」で、そういった路線に近い作品を始めると思います。これまでとちょっと違った路線の作品というのは、楽しみ半分、残り半分は「ちょっと心してかからないとな」という感じです。 ――では、また街を歩きまくる日々ですかね。 結城 そうですね。足を血まみれにして書きたいと思います(笑)。 *** ■結城真一郎(Shinichiro YUKI)1991年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒。2018年に『名もなき星の哀歌』で「第5回新潮ミステリー大賞」を受賞し、2019年に同作で作家デビュー。2021年、『小説新潮』に掲載された『#拡散希望』で「第74回日本推理作家協会賞(短編部門)」受賞。同作品を含む単行本『#真相をお話しします』(新潮社)は累計売上20万部を突破し、「2023年本屋大賞」にノミネート 『難問の多い料理店』特設サイト: 取材・文/酒井優考 撮影/山添 太