【中国は石炭消費を減少させない】IEAの2023年石炭ピーク見通しが実現しない理由、日本は動じず石炭火力の低・脱炭素化を
欧州の非現実的シナリオに振り回されるな
筆者がエネルギー研究に従事し始めた90年代半ば、IEAと言えばエネルギー研究の総本山のような位置づけであり、IEAが毎年発行する『世界エネルギー見通し』(World Energy Outlook)は世界のエネルギー需給の現状と今後を展望し、エネルギー関連のアジェンダを理解する上で確認必須のバイブルであった。それから30年を経て、IEAが客観的なスタンスを放棄して、環境原理主義に迎合し煽動する報告書を出すまでに堕してしまったことは非常に残念である。 IEAの堕落は気候変動交渉で非現実的な主張を繰り広げる欧州の言動に影響されたものなのだろう。先日4月28日~30日に開催された主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境大臣会合においても欧州の画策で、排出削減対策のない石炭火力を30年代前半あるいは産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えられる時間軸で廃止するという共同声明が出された。 これを受けて、一部メディアは、先般議論が始まったわが国の次期エネルギー基本計画で石炭火力廃止の道筋を定め、再エネの拡大を進めなければ先行国との差は拡大するばかりで取り返しがつかなくなるなどと主張するものもある。毎度おなじみの「世界の流れに乗り遅れるな」という主体性のない主張であるが、そもそも世界の流れに関する認識自体、間違っている。 世界で再エネの導入拡大が進んでいることは間違いないが、実際のところそれは一部の国々においてのみ、である。なかでも中国は世界最大の再エネ導入国であり、太陽光の設備容量は世界全体の37.3%、発電量で同32.3%、風力も設備容量は同40.7%、発電量で同36.2%と一国で非常に高いシェアを占めている(いずれも22年)。 すなわち、世界の再エネのおよそ4割が中国一国によって導入されているのが実情である。風力発電量の欧州と北米のシェアは49.9%、太陽光は36%であることも踏まえれば、再エネの大半が中国と欧米諸国において導入されているに過ぎないことが理解できよう。