【中国は石炭消費を減少させない】IEAの2023年石炭ピーク見通しが実現しない理由、日本は動じず石炭火力の低・脱炭素化を
巨額の投資資金を注ぎ込んだ再エネだが……
それでは再エネの発電設備増強にいかほどの金額が注ぎ込まれてきたのかと言えば、23年の風力と太陽光の発電設備投資は6706億元(約13.4兆円)、発電設備投資額全体の7割にも及ぶ。これほど巨額の資金を投じたリターンが中国全体の発電量からすればわずか1.5%の増加というのはあまりに効率が悪いと言わざるを得ないだろう。 繰り返しになるが、23年の発電量の増加のうち、その81.4%が火力によるもので再エネは29.9%に過ぎなかった。ちなみに火力の設備投資額は1029億元(約2.1兆円)で再エネの6分の1以下である。 風力も太陽光も投入後は燃料費が不要であるため、中国では「地域によっては」石炭火力よりも安価なコストで発電できる。その意味するところは、再エネは、設備投資額はかさむし、稼働率も低いが、長期間稼働すれば燃料費節約によって経済性がある場合があるということだ(ただし、電力供給の安定化に必要なコストを加味すれば到底経済性があるとは言えない)。 しかし依然として5%以上で発電需要が伸びている中国にとって、発電設備投資の7割を振り向けても需要増加分の3割しか満たすことができない再エネに切り替えるということは、長期的に採算が取れるとしても電力供給の安定上、軽々に進めるわけにはいかないのだ。
中国政府も石炭火力の役割を再評価
21年秋、中国が全国の3分の2の省で停電を含む深刻な電力不足に見舞われた引き金は、水力と風力の大幅な出力低下であったことは動かしがたい事実である。それに対応して中国政府はエネルギーの安定供給という観点から石炭火力の重要性を再認識している。 火力への設備投資額は2000年代に入ってからほぼ一貫して減少を続け、20年には568億元の大底をつけた。しかし21年からは再び増加し始め、23年は20年の81.2%増となる1029億元にまで回復した。 また火力の設備稼働率も20年の48.1%から23年には50.9%にまで(04年の68.4%には比べるべくもないが)上昇している。中国の電力需給バランスに石炭火力の果たす役割は近年むしろ増大しているのである。 以上の状況を踏まえると、今年24年から26年にかけて中国で石炭火力による発電量が減少に転じるというIEAの見通しは極めて蓋然性の低いものである。もし実現する可能性があるとすれば、中国経済の不振がさらに深刻化し、発電需要がほとんど伸びない、あるいは減少するというシナリオが現実化した場合のみであろうが、少なくとも26年までにそうした事態に陥ることはないだろう。