児玉美月の「2024年 年間ベスト映画TOP10」 映画にとってなにより尊ぶべき“カタルシス”
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2024年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、映画の場合は、2024年に日本で公開・配信された作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第16回の選者は、文筆家の児玉美月。(編集部) 【写真】『哀れなるものたち』場面カット(複数あり) 1. 『哀れなるものたち』 2. 『チャレンジャーズ』 3. 『陪審員2番』 4. 『コット、はじまりの夏』 5. 『ミツバチと私』 6. 『ジョイランド わたしの願い』 7. 『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』 8. 『メイ・ディセンバー ゆれる真実』 9. 『パスト ライブス/再会』 10. 『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』 2024年は、なんと言っても二本の劇場公開された新作があったヨルゴス・ランティモスの年だった。新生児の脳が移植された女性がヨーロッパ横断の旅に出る『哀れなるものたち』は、米国大統領選でドナルド・トランプが大統領に返り咲き、「わたしの身体はわたしのもの」というスローガンがふたたび駆け巡ったように、ここに描かれたテーマがますます重要なものになったようにも思う。その後すぐに公開された『憐れみの3章』は、大衆向きな作品を経てランティモスらしさへと回帰した感のあった作品であり、どちらも甲乙つけがたいものの、そうした社会的背景を加味してこのベストのリストでは『哀れなるものたち』を挙げたい。 『チャレンジャーズ』は、ルカ・グァダニーノのフィルモグラフィにおいて最高到達点とも言える作品だった。三角関係における欲望をテニスに仮託し、最後の最後にあらゆる伏線が結実する快感が爽快。 クリント・イーストウッドの新作『陪審員2番』は、現代社会における「真実」と「正義」の問題が法廷劇へと昇華され、一秒も途切れることなく観客をグッと引き込み続ける。真の主人公が登場するラストの余韻がいつまでも終わらない。 このトップのベスト3本は、いずれも純然な映画的カタルシスをもたらす。現代において交錯するさまざまな社会的、政治的重要性を凌駕するほどのそのカタルシスこそが、映画にとってなにより尊ぶべきものであることを再認識させた。