ラグビー経験わずか2年の17歳で日本代表候補も…W杯出場経験ナシ “イングランド戦で代表復帰”「消えた天才」山沢拓也(29歳)の魅力とは?
山沢の持つ「閃き」の魅力
本人の評価とは裏腹に、ファンやメディアからは常に山沢待望論があがっていた。 それは山沢の持つフレア=閃きの魅力からだ。華があるだけではない。現代のラグビーは高度に情報化された中で試合が行われ、ほとんどのプレーは事前に計画された中で進むが、戦術分析も進んでおりトライは簡単には生まれない。だが山沢はときに、チームが想定していなかったチャンスを見つけ、あるいは作り出す。 「考えすぎないようにしています」と山沢は言う。 「細かいシェイプ(攻撃時の選手のポジショニング)の効果も分かるのですが、チャンスが生まれたときに、そこに反応できる状態でいたい。シェイプのことを考えるよりも、そのチャンスを活かせるように瞬時に反応したいんです。考えすぎると、考えてから動く分反応が遅くなってしまう。それだと自分の良さが出ないというか、今までの自分のプレーを振り返ると、考えるよりも先に身体が動いたときの方が結果的に良かったりするんです」 ひらめきは両刃の剣でもある。ジェイミー時代に山沢の評価が低かったのは、事前に立てたゲームプランを遂行する能力で他のSO候補の方が高かったためだと言われる。だが、事前のプラン通りにはトライはなかなか生まれない。イングランド戦で山沢があげたトライも、中盤での混戦でうしろに流れかけたボールを日本代表のLOワーナー・ディアンズが長い腕で捕球。敵味方とも想定しないところから走り出したワーナーに瞬時に反応したのが山沢だった。 試合後のミックスゾーン。メディアが山沢を囲んでいる横を通りかかったエディーHCは「ヤマサワ、いいね」と笑いかけると、こう続けた。 「ずっと23番ね」 どういう意味ですか? と聞いたときにはエディーは通り過ぎていた。 真意は「Xファクター」だろう。エディーは初めて日本代表を率いた2012年当時のインタビューでもその必要性を強調していた。コーチングでは教えられない能力。事前に準備した以外のオプションを見つけ、瞬時に遂行する能力。それを発見し、チームに加える勇気がコーチには必要だと。 一方で、チームの土台を作る時期、Xファクターの位置づけは難しい。命じたことをやりきれと多くの選手に求めながら、一方には裏切りさえ求める矛盾。だがチームの戦術を積み上げ、その情報が相手にも(世界にも)広がっていく過程では、事前の設定に=相手の分析に収まらない、裏をかく、あるいは瞬時の判断で生まれるプレーも必要になるだろう。それを発見し、実行することこそ、エディーが山沢というXファクターに求めるミッションなのだと思う。それには試合の途中でピッチに送り込むインパクトプレーヤー、つまり「23番」が相応しいと。
2027年のW杯は「全然意識していない」
「2027年の次回W杯については?」の問いに山沢は「全然意識していない」と即答した。欲のなさは変わっていない。だがそれも、常に自由にオプションを選択する、たまたま生まれたチャンスに瞬時に反応するXファクターには必要な資質なのかもしれない。 2024年6月、船出したエディージャパンには、ちょっと異色の、違う発想を持つ、だからこそ頼もしい、唯一無二の乗組員が搭乗している。
(「ラグビーPRESS」大友信彦 = 文)
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