「沿線格差」の頂点!?路線が長くもなく観光地もない東急電鉄が「セレブ路線」として扱われるようになった背景とは…戦前から貫かれる<東急グループの基本戦略>
◆多摩田園都市 「沿線格差」関連の話題で、東急電鉄がセレブ路線として扱われるのには、背景の経済的豊かさと、知的豊かさが理由となっていると考えていいだろう。 そのあたりを極限まで突き詰めたのが、戦後の成長期に東急が中心となって開発した多摩田園都市である。 広い住宅地、商業施設の完備などに力を入れ、多くの大卒者たちがそこで家庭を持ち、子どもを中学受験させた。 この沿線には都心からかなり離れていても中学受験の塾が多くある。そして、東急電鉄の沿線ファミリーは、再生産されていく。 近年、高学歴・高所得層は、タワーマンションに暮らしているということもよくいわれる。東急沿線にもタワーマンションが多く建つエリアがある。東急東横線の武蔵小杉駅周辺だ。 このあたりは京浜工業地帯のなかで、かつては電気関連や新聞輪転機関連の工場が立ち並んでいたが、工場は郊外に移転し(もっとも、これらの工場ができたときには武蔵小杉周辺は郊外だった)、その跡地がタワーマンションとして再開発された。 工業地帯は土地こそ広いものの、田園都市線沿線のように地盤がしっかりしているわけではない。そこを技術力で克服し、巨大なマンションがいくつも建つようになっていった。 このあたりのタワーマンションを選ぶ人たちは、もともと東急沿線に生まれ育った人たちが多いのではないかとを考えることも可能だ。
◆沿線格差 東急沿線の豊かさを示すエピソードに、コロナ禍でテレワークが盛んになった時期の話がある。 東急沿線は、ほかの私鉄沿線に比べてテレワーク可能な企業や職種の人が多いため、利用者が大きく減ったということになった。これはいまでも完全には戻っていない。 しかし、テレワーク可能な企業や職種は、大企業のホワイトカラーであり、しかも経営判断が合理的なところである。 コロナ禍で確かに東急電鉄の鉄道事業収入は減ったが、このような現象が起こったこと自体、東急沿線でのライフスタイルの豊かさを示すものといえないだろうか。 創業当時から、「沿線格差」を意識して鉄道と関連事業を行ない、経済的にも文化的にも豊かな層が求めるものを提示し、多くの人を引き寄せてきたのが、東急グループである。 路線が長いわけでもなく、観光地などもないため、有料特急のような鉄道そのもので華がある事業はできないものの、鉄道事業、そして関連事業の発展が、地域社会の発展にも大きく貢献してきた。 東急電鉄は「沿線格差」の頂点に立ったといっても過言ではない。 ※本稿は、『関東の私鉄沿線格差: 東急 東武 小田急 京王 西武 京急 京成 相鉄』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
小林拓矢