「沿線格差」の頂点!?路線が長くもなく観光地もない東急電鉄が「セレブ路線」として扱われるようになった背景とは…戦前から貫かれる<東急グループの基本戦略>
『沿線格差』という言葉を目にすることが増えましたが、フリーライターの小林拓矢さんいわく、「それぞれの沿線に住む人のライフスタイルの違いは、私鉄各社の経営戦略とも深くかかわっている」のだとか。今回はその小林さんに、東急電鉄沿線の魅力と実情を紹介していただきました。東急グループは一般人の「沿線」にかんするイメージをつくり出したそうで――。 【書影】関東8大私鉄の「沿線力」を徹底比較!小林拓矢『関東の私鉄沿線格差: 東急 東武 小田急 京王 西武 京急 京成 相鉄』 * * * * * * * ◆東急電鉄沿線の魅力と実情は? 「沿線」「沿線格差」「私鉄沿線」と聞いて、多くの人がイメージするのはおそらく東急電鉄沿線ではないだろうか。 もちろん、そうなるのも仕方がない。一般人の「沿線」にかんするイメージをつくり出したのは東急グループだからだ。 鉄道があり、商業施設があり、住宅があり、そしてその地域から都心の職場や学校に通う――つまり、「沿線」というものを意識してビジネスを展開したのは、関東では東急グループが最初である。 そもそも東急グループの前身「田園都市株式会社」は、渋沢栄一(しぶさわえいいち)が郊外住宅地の開発のために創設した会社であり、鉄道事業とあわせて事業を展開しようとしていた。 当初は関西にて沿線ビジネスを確立していた小林一三(こばやしいちぞう)に手伝ってもらっていたが、鉄道事業のために五島慶太を推挙し、目黒蒲田電鉄ができることになった。 それ以来、五島慶太は路線網の延伸や近隣路線の買収・統合により、鉄道事業の規模を拡大させるだけではなく、住宅開発や百貨店事業の展開、それらを含めた沿線ビジネスの複合展開を行なうことで、企業規模を発展させていく。 学校の誘致にも積極的で、通学需要も生み出し、それらの学校の存在が鉄道路線の価値を高めるという状況になっていった。
◆東急グループの基本戦略 東急グループがターゲットとしたのが、高等教育を受けたファミリー層である。 戦前の教育制度の時代には高等教育を受けた人はいまよりもずっと少なかったが、そういった層に鉄道サービスと住宅サービス、その他商業サービスを提供するという方針を貫いてきた。 鉄道を中心に地域をまるごと開発し、そこに豊かな層が暮らせるようにすることで沿線価値を発展させる、というのが東急グループの基本戦略である。 沿線にある世田谷区の保坂展人(のぶと)区長は、元社民党の国会議員という経歴を持っており、地域の中心人物でもなければ、保守的でもないタイプの政治家は首長になりにくいという傾向があるにもかかわらず、2023(令和5)年の統一地方選挙で4期目の当選を果たした。 社民党経験のある自治体のトップで知られるのは、ほかに兵庫県宝塚市の中川智子市長の例があるものの、こちらは阪急沿線となっている。 ブランド力の高い沿線に、そのような層が集まるのは興味深い。