能登の状況は明日のあなたの街かもしれない 落合誓子[ノンフィクション ライター/珠洲市在住]
出るのも苦住むのも苦
子供や孫と、一緒に立ち向かえる人はまだ良いが、一人暮らしの人は珠洲市だけで約1600人。人口の1割は遥(はる)かに超える。離れている子供たちの助けで小さな家を建てるのか、それとも…仮設住宅から追い出されたら公営住宅にちゃんと入れて貰えるのだろうか。その費用を自分で払えるのだろうか。子供の住む処に行って一緒に住める人は幸せだが、老人を引き取って一緒に暮らせるほど余裕のある人が一体どれだけいるのだろうかと思う。一緒に暮らしてもせいぜいが1カ月という話もある。その事情は様々だと思うが、実際に戻ってきた人もちらほら見える。 街に横たわる瓦礫の数だけ、その家族の人生がある。しかし、一日も早く、と願いながら瓦礫の撤去を待つしかないのが、私たちの今の日常なのだ。
珠洲市の寺院の全て、約60カ寺が被災
寺である私たちとて同じだ。本堂は全壊判定。庫裡(くり)の一部(奥座敷と物置)も全壊。幸い、建て直して20年余りという庫裡の本体は無傷ではないが残ったので、今はその残ったところで暮らしている。全壊した物置はもともと私の祖父たちの新居にと建てられた離れだ。その部屋はやがて父と母の新居になり、私たちが結婚した時に再び改修した、3代続きの思い出の場所だ。2階には子供たちの部屋があった。それが庫裡の改修が完成した時にそのまま物置になり、寺の数々の道具や住職である夫のコレクション。私たちの撮り溜(た)めた写真や娘たちの仕事の材料等々、所狭しと詰め込んだまま、全部まとめて飛び散った。掘り出せたのは半分にも満たない。 やがて全部ゴミ置き場に持って行ってしまうことを考えたら、「急いで片付けて貰いたくはない」という本音が複雑に交錯する。これが被災者である私たちの「今」に他ならない。
群発地震が指し示した現実
既に公表された数字によると能登半島地震全体で解体予定が3万2410棟。内、今年の12月までに1万2000棟の解体を計画しているという。 先述したが、個人が自分で業者を探して解体している「自費解体」にも1000%公費が充当されることが県と環境庁で策定されたという。その基準とする額はそれぞれの市町で決められている公費解体と同額という。 また、その他、県が独自に裁定した「関連災害廃棄物」が322万トン。市町村の縛りを外して「広域処理体制」を打ち出している。