バイデン大統領の禁止命令に日本製鉄とUSスチールが共同声明…「あらゆる措置講じる」と表明
【ワシントン=田中宏幸】米国のバイデン大統領は3日、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画を禁止する命令を出したと発表した。同盟国の民間企業が合意していたM&A(合併・買収)を米大統領が最終的に阻止する異例の事態となった。日本企業の対米投資に影響が出る可能性もある。 【図】一目でわかる…日本製鉄によるUSスチールの買収計画の経緯と今後
バイデン氏は日鉄とUSスチールに対し、原則30日以内に「買収計画を完全かつ永久に放棄するために必要な全ての措置」を講じるよう命じた。声明で「国内で所有・運営される強固な鉄鋼産業は、国家安全保障に不可欠であり、強靱(きょうじん)なサプライチェーン(供給網)にとっても極めて重要だ」と説明した。
買収計画は、対米外国投資委員会(CFIUS)が審査していたが、期限とされた2024年12月23日までに買収に伴う安全保障上のリスクを巡って委員間で合意できず、バイデン氏に最終判断を委ねていた。
米紙ワシントン・ポストによると、CFIUSはバイデン氏に対し、買収を認めれば米国内の鉄鋼生産量が減少し、安全保障上のリスクとなる可能性があると報告。「安全保障上重要な産業への供給不足や遅延につながる可能性がある」と結論づけた。一方、ホワイトハウス高官はこの数日間、「日本を代表する企業からの多額の投資を拒否すれば、日米関係に悪影響を及ぼす可能性がある」とバイデン氏に警告し、説得を試みていた。
USスチールを巡っては、日鉄が23年12月に買収計画を発表したが、直後に全米鉄鋼労働組合(USW)が雇用不安や安全保障への悪影響を理由に反対を表明。バイデン氏は24年3月、買収に懸念を表明していた。
日鉄とUSスチールは共同声明を発表し、「バイデン大統領が禁止命令を決定したことに失望している。自身の政治的な思惑のために、米国鉄鋼労働者の未来を犠牲にすることにほかならない」と反発。「法的権利を守るためのあらゆる措置を講じていく」と表明した。
武藤経済産業相は「このような判断がなされたことは理解しがたく、残念だ。日本の産業界からは今後の日米間の投資について強い懸念の声が上がっており、日本政府としても重く受け止めざるを得ない」とのコメントを発表した。