命を守るローリングストック――南海トラフ地震、首都直下地震に「自助」で備える
「企業努力」にも限界はある
2018年12月、筆者は陸上自衛隊を定年退官し、株式会社セブン-イレブン・ジャパンに入社した。店頭でのレジ打ち勤務から始まり、コンビニの実態を理解した1年後、社長室でCovid-19対応を行い、そのまま新設のリスクマネジメント室で災害対応を担当した。 入社後に、社長に「大変申し訳ないが売上向上のための知識はない。その代わり企業価値を上げることで会社に貢献したい」と伝えていた筆者は、大規模災害対応のための官民共同研究会を立ち上げた。主催はコンビニ各社を含むフランチャイズビジネス運営企業が加盟する『一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会』で、国の省庁や自治体から参加された皆様に多大なる協力をいただいた。当初の2年間では、首都直下地震への対応策をまとめた。具体的には、避難所のみならず在宅避難者にも水と食料を届けるため、コンビニの配送車も指定公共機関の「緊急通行車両」と認めてもらい、警察庁の尽力により「緊急通行車両確認標章」を申請後直ちに交付できるよう政令も改正していただいた。 そして、2024年1月から共同研究を次のステージ――「南海トラフ地震」対応――に進めようとしていた、まさにその時、能登半島地震が起きた。株式会社セブン-イレブン・ジャパンでは2020年以来、毎年、社長以下で南海トラフ地震や首都直下地震等のシミュレーション演習を繰り返しているが、その演習結果と能登半島地震の教訓から明らかになったのは、コンビニ各社や国・自治体、その他の関係機関がどれだけ頑張っても、発災後3日目までに、もしかしたら1週間後でも、水や食料を届けられない被災地があるということだった。能登半島地震において、セブン-イレブンは1月6日朝までに被災した全店舗を再開させることができたが、それは出店地域の北限が中能登の七尾市だったからであって、珠洲市や輪島市にも出店していたコンビニチェーンは、その後もずっと物資の配送に苦労されていた。 コンビニやスーパーで働く人々は、大規模災害時にも一日でも早く商流を回復し、地域のお客様に水や食料、その他必要な物資を必要な分だけお買い求めいただけるように用意したいと常に考えている。それが社会インフラとして期待される自らの役割であると自覚し、地域社会の役に立てるよう尽力している。 お客様の立場からすれば、「災害時にこそコンビニは店を開けていて、必要なものを買えるようにしておいてほしい」と思われるかもしれない。かつて、筆者もそうだった。 しかし、巨大地震で工場が被災し、停電や断水の状態のままでは、あるいは交通手段が途絶し工場の従業員が出勤できなければ、弁当やおにぎりなどの生産を再開できない。 配送センターも、停電していれば仕分け作業もできないし、道が啓開されていなければ店舗まで配送することもできない。配送が来なければ、コンビニは保有在庫が少ないので、あっという間に棚が空になる。 そして、コンビニオーナーもそこで働く従業員もまた被災者だということを理解してほしい。東日本大震災でも能登半島地震でも、多くの加盟店オーナーは、自らも被災しながら、地域社会のためにと使命感でお店を開けてくださった。