命を守るローリングストック――南海トラフ地震、首都直下地震に「自助」で備える
「公助」には限界がある
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、激震と巨大津波に加え、原子力災害も併発する複合災害だった。 防衛大臣からの災害派遣命令を受けた自衛隊は、総理大臣より10 万人態勢をとれとの指示もあり、陸海空あわせて約10万7000人を被災地に派遣した。自衛隊は爆発後の福島第一原発に、できうる限りの放射能防護処置を施した上でヘリからの空中注水任務に従事した。水素爆発が起こった際は原発に一番近い場所で任務に当たり、その後も長期にわたって被災者の救助捜索や、給水、炊き出し、入浴支援などの生活支援と、誠心誠意、務めを果たした。 だがそもそも、「災害時には自衛隊が助けてくれる」と思っている人々は、陸海空合わせた自衛官総数を正確に知っているだろうか。正解は、陸上自衛隊15万、海上自衛隊4万5000、航空自衛隊4万7000、統合部隊5000の、合計約24万7000人が自衛隊の総勢力であり、予備自衛官もわずか4万8000人しかいない(いずれも概数。しかも上記は定員であり、現状は充足率が約9割なので実数はさらに少ない)。日本と人口規模が近いロシア(約1億4000万人)や、人口約2700万人の北朝鮮がそれぞれ100万人以上の軍隊を保持していることと比較しても、自衛隊の人員は極めて少ない。 東日本大震災における災害派遣人数が10万7000人と聞いて、「なぜ全力(24万7000人)で災害派遣任務にあたらないのか」と考える人もいるかもしれない。一般にはあまり知られていないが、東日本大震災が起こった直後、空自の対領空侵犯任務による緊急発進(スクランブル)は増加した。被災後の日本に対する周辺国の情報収集活動は活発化し、災害派遣に仲間を見送った残りの14万人の自衛官は、最低限の人員で必死に国の防衛に当たっていたのだ。災害派遣は自衛隊法において、自衛隊の「主たる任務」である防衛出動に支障を生じない限度で行う「従たる任務」と規定されている。10万人超という災害派遣人数は、当時の自衛隊にとって限界値だった。 そして、2011年と2024年の日本周辺の国際環境を考察してみると、中国海空軍の著しい増強、北朝鮮による核・ミサイル能力の大幅向上、ロシアのウクライナ侵攻等、現在の日本は東日本大震災当時よりもはるかに厳しい戦略環境下にある。このような状況下で仮に巨大地震が起こったとしても、2011年のように10万人規模の災害派遣を行うことは、防衛体制に穴をあけてしまうことになるので常識的に考えて極めて困難だ。 南海トラフ地震の想定死者数は、東日本大震災の約16倍(約2万人に対し約32万人)。被災範囲も広く被害が大きいが、より小規模な部隊しか派遣できない。「自衛隊がいなくても、警察や消防、その他の国や自治体の機関が助けてくれる」と期待するのも難しいだろう。人手不足はどの公的機関も同じだからだ。基本的に、南海トラフ地震や首都直下地震が今起きれば、公的な救援の手は東日本大震災当時よりもはるかに少なくなる可能性を認識しなくてはならない。