激増する闇バイトの犯罪:「楽な金もうけ」が生む悲劇
家庭内の虐待、ネグレクトと非行との関連性
筆者が話を聞いた闇バイト経験者のうち、半数以上の家庭に機能不全の傾向が疑われた。とりわけ、家族構成が実母と義父という家庭が過半数を占め、家庭に居場所がなかった可能性をほのめかしていた。 家庭に居場所を失って虐待などを経験し、生きづらさを抱えた少年が非行を深化させるプロセスに注目した仮説がある。大阪の少年院でカウンセリングをする精神科医の中野温子氏が提唱する「自己治療仮説」だ。 第117回日本精神神経学会学術総会(2021年9月)で中野医師が報告した調査結果から、少年が大麻使用に至った背景や、薬物の売人となる理由の一端が理解できる。ある少年院に収容されていた47人を対象に個別面接を実施した中野研究によると、薬物に関しては大麻や合成麻薬のLSD、MDMA、コカイン、処方薬などについて調査した結果、47人中41人が乱用を認めている。 さらに、薬物のプッシャー(売り子)をしていた者が55%、そのうち7割以上が多剤乱用だったことが明らかになっている。彼らの被虐待歴について聞いたところ、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトのうちのいずれか一つでもあると答えた者が70%に上っていた。以上の結果から中野医師は、彼らが家庭内に居場所がなく、生きづらさを抱えていることや、「快感」ではなく「苦痛の緩和=自己治療」 を求めた結果、薬物などの依存症になるのではないかと分析している。
非行の深化は「生き延びるため」
この調査結果を受けて、中野医師は「家庭に居場所がなかった少年が、居場所を求めて不良仲間とたわむれるようになり、そこから薬物やアルコール、夜の世界に足を踏み入れ、悪の世界に染まっていくというパターンが非常に多いが、非行も生き延びるための自己治療だったという見方もできるのではないか」とし、機能不全に陥った家庭で育った少年が非行を深化させる理由に言及している。 法務総合研究所による「生活環境と意識に関する調査」(2023年版『犯罪白書』)では、処遇段階(※1)1級の少年院在院者564人(男子508人、女子56人)、保護観察処分少年257 人(男子143人、女子114人)を対象とし、虐待の実態を調査している。その結果、男子の在院者508人のうち59.6%、女子56人のうち73.2%が、家族から殴る、蹴るなどの身体的暴力を受けており、前述の少年院における調査を裏付けていた。 筆者が支援したケースでも、2人が15歳の時に大麻の吸引にとどまらず、薬物を販売していた。2人ともネグレクトなど家庭の機能不全傾向が顕著だった。こうした若者が薬物の売人などから闇バイトに誘われることで、一味徒党を組む可能性は否定できない。薬物を扱う売人や先輩から闇バイトに勧誘されたら、その誘いをむげには断れないからだ。 (※1) 段階別処遇は、保護観察対象者を改善更生の進度や再犯の可能性の程度および補導援護の必要性に応じて4段階に区分し、各段階に応じて保護観察官関与の程度や接触頻度などを異にする処遇を実施する制度。