翻訳出版業界の「慣習」がヤバすぎる…『スティーブ・ジョブズ』の一流翻訳家が語る、誰も知らない「壮絶な仕事内容」
小説家、漫画家、編集者、出版業界の「仕事の舞台裏」は数あれど、意外と知られていない出版翻訳者の仕事を大公開。『スティーブ・ジョブズ』の世界同時発売を手掛けた超売れっ子は、刊行までわずか4ヵ月という無理ゲーにどうこたえたのか? 『「スティーブ・ジョブズ」翻訳者の仕事部屋』(井口耕二著)から内容を抜粋してお届けする。 【漫画】頑張っても結果が出ない…「仕事のできない残念な人」が陥るNG習慣 『「スティーブ・ジョブズ」翻訳者の仕事部屋』連載第2回 『「この本だけは絶対に訳したい」...「スティーブ・ジョブズならこの人」な翻訳者を釘付けにした伝説の本』より続く
翻訳書出版は巨額オークションから
翻訳書を出すには、まず、翻訳の版権を取らなければなりません。日本語に訳して出版する権利を買うのです。具体的には、「いつ出すのか、どういう形態で出すのか(紙の本が基本ですが、電子書籍やオーディオブックなどはどうするのか、また、マンガなどにも展開するのか)、著者にいくら払うのか」などを交渉し、取り決めることになります。 この交渉をする相手は、欧米の場合、基本的にエージェントと呼ばれるところになります。エージェントというのは、作家さんと契約し、二人三脚で仕事をする人です。著作権を管理する、どういうメディアにどのくらい出るかを調整するなど、その仕事は多岐にわたりますが、なんといっても大きいのは、作品を売ること、できれば高く売ることです。そして、『iSteve』の著者ウォルター・アイザックソンのような大物作家には、大物エージェントがついています。だからどうしても高くなります。 そんなわけで、話題作・人気作は、オークション形式になったりします。翻訳したいという出版社を競わせたほうがいい条件を引き出しやすくなりますからね。『iSteve』もオークションでした。
気になる翻訳のお金事情
版権交渉を左右するのは、やはり、お金です。原著者が欧米なら、一般的に、印税とアドバンスを取り決めます。印税というのは、本の売り上げに対して何パーセントを支払うという取り決めで、日本でもよくある形です。原著者の印税率は6~9%が多いと言われています。部数に応じてスライドしたり、いろいろと細かく取り決めることもあるようです。 アドバンスは、印税の前払いだと思えばいいでしょう。印税だけだと、本が売れなかったときすごく少額になってしまうおそれがあります。それを避けるため、最低限いくらは払います、それも、先払いしますというのがアドバンスです。本がたくさん売れて印税がアドバンスを超えれば、超えた分があとから支払われるわけです。 オークションのポイントは、このアドバンスになります。印税率は著者の格でだいたい決まるので各社ほぼ横並びになってしまい、差が付きませんから。 またこの翻訳版権、どこが取ったのかは、基本的にわかりません。ウチが取ったとはどこも言いませんし、取ったのはおたくですかと他社に尋ねるのも基本的にナシです。話題の本だと編集さんのあいだであそこだここだとうわさになったりするらしいのですが、我々翻訳者だと、そういううわささえ耳に入ってきません。