不動産高騰で話題の「50年返済住宅ローン」、そのおかしな理屈。
「50年ローン」が台頭する理由を最初に言ってしまえば、単純にマンション価格が高くなり過ぎたからである。35年ローンの返済計画で買えないほどマンションの価格が高騰したから、「50年だったら返せるよね」ということで登場しただけだ。 首都圏のマンション価格が平均的な勤労者の所得をもってして、35年ローンで返せる範囲内であれば決して登場しなかったはずだ。つまり、マンションの価格が上がり過ぎたからこそ生まれた、金融商品の「鬼っ子」のような存在が「50年ローン」なのだ。 ご存じのように、首都圏のマンション価格は2012年以来の値上がりで異様な高騰を見せている。東京23区で家族4人が暮らせる70平米程度のマンションを購入しようとすると、もはや1億円の予算でも探せないレベルになっている。そんな状況だからこそ、「50年ローン」が登場したのだ。 では、この「50年ローン」を利用する人はいるのだろうか? 私は、多くはないが一定数「いる」と考える。 住宅ローンを利用してマンションを購入する人は、購入対象の物件価格よりも月々の支払額を基準に購入の可否を決める。つまり「自分達の収入で払えるかどうか」という視点である。当たり前だが35年ローンよりも50年ローンの方が、毎月の返済額は明らかに低くなる。50年ローンでの返済額を提示されて、「これなら買える」と考える人は多い。 ■人生の半分以上払い続けるリスク ただし、冷静に考えるとその判断はかなり危うい。 50年もの間、今と同じかそれを上回る収入が続く...などと言うことは通常あり得ない。35歳の人なら25年後の60歳時には、確実に収入が大幅に下がる。ただ、多くの人は先述のように「退職金で一括返済」とか「値上がりしたら売ればいいや」と考えている。そういう「甘い未来図」を描く人が「50年ローン」に手を出すのだ。 頭を冷やして考えてみよう。 60歳の一時定年まで、今の勤務先との間でずっと雇用関係が続くのか。今と同じかそれ以上の給与が得られるのか。さらに、退職金は想定通りに支払われるのか。公務員なら問題ないが、民間企業は業績や業界の事情に大きく左右される。50年も業績を維持できる民間企業は稀有だ。ペアローンを組むのであれば、配偶者にもまったく同じ想定をぶつけてみる必要がある。どちらかに「想定外」が生じれば、返済計画は行き詰まる。 購入したマンション価格が値上がりしてくれれば、問題は少ない。いざとなったら売却すればお金の問題はチャラにできる。しかし、マンションの価格が今後も値上がりを続ける保証はどこにもない。 今、世界の主要国で不動産価格が値下がりしていないのは日本くらいだ。中国はもちろん、アメリカやヨーロッパでも不動産価格は鮮明に値下がりしている。やがてその波は日本にもやってくるだろう。 近未来には「売ればなんとかなる」という解決法が使えなくなっている可能性が高い。それでも「50年ローン」でマイホームを買う選択肢はあるのだろうか? 日本人の寿命はバブルが終わってからでも10年も延びていない。なのに、住宅ローンの返済期間が15年も延びる、というのはかなり不可思議な話なのだ。 文/榊淳司 写真/photo-ac.com 京葉銀行