全社で取り組むITプロジェクトはなぜ失敗するのか?(渡邉亘 経営コンサルタント)
■組織横断が要因となって、プロジェクトの難易度がアップする
こうした対立構造に加え、各部門の考え方やプロジェクト参加に対するモチベーション、全社最適の観点から見た場合に発生する問題点もあります。以下では組織横断に着目した問題点を3つ挙げることにします。 (1)自部門の利益を優先 各部門が自部門の利益を優先するため、全ての部門の意見を聞きいれているとプロジェクト全体の目的が曖昧になります。プロジェクトの目的が曖昧で、具体的な成果がイメージできないと何をどこまでシステムで実現するかの決定が難しくなります。 たとえば、「業務全般を効率化する」という抽象的な目的だけを掲げたプロジェクトでは、関係者によって目指すべきゴールが違ってしまうため、必要以上にシステムへの要求事項も肥大化する、という傾向があります。 (2)部門によって異なる危機感や温度感 各部門によって業務の課題に対する危機感や温度感が異なることは良くあることです。このためプロジェクトの体制に入っているメンバーでも、プロジェクトの検討に対して自分ごとでなく他人ごとになってしまい、評論家のようなスタンスで関与する結果、決めるべきことを決められない、という状況に陥ります。 (3)複数部門を説得する意思決定者が不在 複数の部門が関わるプロジェクトでは、全ての関係者を納得させる意思決定が求められますが、そのような意思決定者が不在の場合が多くあります。このため意思決定も含めてシステム開発会社へ丸投げしようとするような企業が散見されます。 丸投げをすることでプロジェクトは進んでいきますが、成果に対する責任感が薄れてしまい結局は品質の良くない業務やシステムができあがる状況が発生します。
■プロジェクトの初期からの密なコミュニケーションが必須
全社ITプロジェクトの失敗を防ぐには、組織内の対立や組織横断に由来するプロジェクトの難所があることを認識し手を打っていく他にありません。プロジェクトの初期段階から、関係者間のコミュニケーションを密にし、共通の目的を具体的に設定することが重要です。 渡邉亘 アットストリームコンサルティング株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント
プロフィール
京都大学工学部を卒業後、TISを経て、(株)アットストリームに参画。2018年、アットストリームコンサルティング株式会社の取締役に就任。現在、代表取締役社長。グローバルに事業を展開する製造業を対象としたマネジメント変革コンサルティングやSaaSテクノロジーを活用した新規事業の立ち上げを牽引。常にお客様の課題解決を最優先に考え、深く長くお客様の成長に貢献することを最上の喜びとする。地球にやさしい農業に関心を寄せ、プライベートでは無農薬・無肥料の自然栽培に打ち込む。