全社で取り組むITプロジェクトはなぜ失敗するのか?(渡邉亘 経営コンサルタント)
■ITプロジェクトの失敗率は70%という現実
JUAS企業IT動向調査報告書2023によると、ITプロジェクトのQCD、すなわち品質の満足度(Quality)、予算遵守(Cost)、スケジュール遵守(Delivery)の状況を調査した結果、おおよそ70%のプロジェクトがうまく行っていないということが分かりました。 ・品質: 70~85%のシステムが品質に満足していない ・予算: 60~85%のプロジェクトが予算を超過 ・スケジュール: 70~85%のプロジェクトがスケジュール遅延 調査報告書にはこれらの原因は「計画時の考慮不足」、「想定以上の現行業務・システムの複雑さ」、「仕様変更の多発」である旨が記載されています。しかし、これらの原因が発生する背景には、「複数部門が関与していること」という、大企業の根底的な要因が存在すると考えられます。
■全社ITプロジェクトに立ちはだかる4つの対立構造
全社ITプロジェクトは、基幹業務システムの導入やグループ共通システムの導入といった種類がありますが、いずれのケースも、複数の部門が関与するがために発生するどうしても避けられない対立を抱えています。ここでは主に4つの対立構造を挙げてみます。 (1)経営と現場の対立 経営層は、業務全体の効率化やデータ活用を重視する一方、現場は自部門の業務の効率化を優先します。 (2) 現場と現場の対立 部門ごとにプロジェクトに対する期待や実現したい事が異なるため、システム構築する際の優先順位で争いが起こります。たとえば、営業部門は顧客データの迅速な共有を求める一方、物流部門は出荷管理の自動化を重視するなど、互いのニーズが競合することがあります。 (3) 本社と現地法人の対立 本社が主導してグローバル標準のシステムを導入する際には、本社はシステムを使ってガバナンスを利かせようとします。ただしそのガバナンスは現地法人にとっては業務効率の妨げになる場合が多く「現地の業務に合わない」と反発するケースが見られます。特に売上高や利益の大きな現地法人は発言力が強いことが多く、本社が主導してデザインしたシステムの導入を拒否するといった事例も散見されます。 (4) 現場とIT部門の対立 ITプロジェクトは予算・スケジュール・品質の3つのバランスを取りながら推進することとなります。IT部門は予算・スケジュールに責任を持ち、現場は構築する業務の品質に責任を持つ、という場合、お互いの利害が一致しないことがあります。