「家出した」「死にたい」…元養護教員に届いたDM 退職し探した道、最長2年の〝雨宿り〟
家庭に事情を抱えた〝卒業生〟の力になりたい――。養護教員を経て、シェアハウスなど若者の居場所を作り、相談支援事業を展開している社団法人「アマヤドリ」の代表に話を聞きました。(withnews編集部・金澤ひかり) 【マンガ】子の生活制限した母…「普通じゃない」と娘が取った行動
民家を使った「サポート付き」のシェアハウス
神奈川県横須賀市の住宅地にある民家。 とある名字の表札が掲げられている玄関を見る限りは、普通の住宅ですが、一歩建物に入ると、入居者の名前が書かれた防災リュックや、物品収納用の箱が並びます。 「去年の今頃は、入居している子たちと『梅しごと』をしてたくさんシロップを作ったんですよ」 ふんわりとした雰囲気をかもし、目尻を下げて笑うのは、この施設を運営する一般社団法人「アマヤドリ」代表の菊池操さんです。 ここは親との不和など、家庭になんらかの事情があり一人暮らしをしたい18歳から20代の女性に向けたシェアハウス。名前は団体名と同じ「アマヤドリ」です。 シェアハウスというと近年、家賃の安さや交流を求める若者が集う家のイメージが定着しつつありますが、ここがそれらシェアハウスと異なるのは、「サポート付き」をうたっていること。 着の身着のまま、元の家を出てきたり次の行き先が決まらない若い女性たちが、できるだけ生活費を抑えることができるよう、入居時の初期費用は無料。さらに、地域のコミュニティーやフードバンクから食料や衣類の寄付があります。 生活の場であると同時に、キャリアなどについて相談できるような体制も整っています。シェアハウスの管理人は看護師で、社会福祉士の資格を持つ相談支援員らとの定期的な面談の場もあります。 現在3室が用意され、2021年以降、のべ21人がこのシェアハウスから巣立っていきました。
DMで連絡をくれた卒業生
菊池さんが事業を始めたきかっけはコロナ禍の2020年。 当時、非常勤で高校の養護教員をしていた菊池さん。その傍ら、フォトグラファーとしても10代から20代の若者を撮影し、写真を残してきました。 教員としても、フォトグラファーとしても、若者との関わりが多かった菊池さんの元には、コロナ禍になり連絡が相次ぎました。 「死にたい」「帰れる家がない」「妊娠した」――。 「頼れる先が限られてしまい逃げ場のない状況の中で、わーっと連絡がきた感じでした」 学校でも、フォトグラファーとしての活動をしていることやSNSのアカウントがあることなどを公にしていた菊池さん。卒業生からの連絡も相次ぎました。「『やどかりみさお』というフォトグラファーとしての名前などで検索してたどり着いてくれたようです」 連絡をくれた卒業生の中には、在校時から家庭の悩みを相談してくれていた人もいましたが、このときに初めて「実は……」と切り出してくれた人もいたといいます。 「高校の養護教員は、顔が見えて信頼できる相談先の最後の相手なのだと痛感しました」 DMからやりとりが始まり、そのままメッセージで悩み相談に乗ることもあれば、市役所や病院までつきそうようなケースもあったといいます。 いくつかのやりとりをしている中で、昔から抱いていた「子どもたちの居場所を作りたい」という思いを具現化するタイミングが来たように感じたのだといいます。 「1対1でつながだけではなく、社会でつながっていく仕組みを作りたい」 同年10月に教員を辞め、翌2021年から法人運営に専念しています。