発達障害の子の特性「体験できるVR」気になる実力 日々体感している困難さや辛さはどんなものか
当事者視点と客観視点、さらに心の声でリアルさを追求
VRに使われる映像のシナリオを担当したのは、発達障害の当事者と専門家、職能団体などをつなぐ全国組織、JDDnetだ。JDDnetの担当者が撮影にも立ち会い、光の点滅の見え方なども細かく調整したという。 そのこだわりについて、JDDnet副理事長で山梨英和大学・人間文化学部教授の小林真理子氏はこう説明する。 「以前から、私たちは研修を通して発達障害の理解啓発を進めていましたが、今回はVRを使って発達障害への理解を進めるという点が面白いと感じました。知ることは合理的配慮(障害のある方の個別の状況に応じて社会的障壁を取り除くこと)への近道です。だからこそVRで描きたかったのが『世の中にはいろいろな感覚の過敏さ、鈍感さを持っている人たちがいる』ということ。 そこで、当事者にはこう見えている、聞こえているというリアルさを可能な限り追求しました。知識の上に体験が加わることはすごく重要なこと。体感することで『(当事者は)こんなに大変なのね』と実感できますし、何に配慮すればいいかがわかるようになります」 例えば、ASDのシナリオでは、机や椅子を移動させる際の音を嫌がったり、蛍光灯がチカチカして見えて不快になる。LDでは教科書の文字が歪んで見えて、音読が難しい。またADHDでは、整理整頓が苦手で忘れ物を繰り返してしまったり、自分の興味・関心のあることを一方的に話し続けてしまうなどの特性を再現している。 ただ、このコンテンツは合理的配慮をしてもらうためのものだ。VRで体感する光や音の刺激が強くなりすぎてしまうと、VR体験そのものが不快な体験で終わってしまう恐れもある。そのため一般の方が受け入れやすい光や音に抑えるようにしているという。 当事者の大変さを体感しやすい工夫は、ほかにもある。それは、「当事者の心の声」を入れたことだ。その狙いを岡田氏はこう話す。 「当事者の辛さを表現する際、『周りが笑う』という方法もありますが、それでは学びになりません。そこで、周囲が行う合理的配慮とともに当事者の心の声を入れることにしました。発達性協調運動障害を例に挙げると、大縄跳びでうまく跳べず周りの子に『練習だから大丈夫!』と声をかけられるシーンで、当事者の『自分はできていない……』という心の声を入れています」 日常生活の出来事の中で感じた痛みが持続し、合理的配慮がなされても自己効力感が落ちてしまう……。そんな発達障害の当事者が日々感じている心の痛みを丁寧に描いた点もこだわりの1つだ。