松本人志氏「訴えの取下げ」は裁判を“すべてなかったことにする”手段 裁判をやめるため「他にとりえた2つの方法」とは?【弁護士解説】
被告の“応訴”後に「訴えの取下げ」をする「メリット」は乏しい?
以上を前提とすると、「訴えの取下げ」は、少なくとも「裁判上の和解」と比べるとデメリットが著しく大きいと考えられる。なぜなら「裁判上の和解」は原告と被告の双方が互いに譲ることが条件なので「一部勝訴」と同じ効果が得られるからである。 原告が「裁判上の和解」を選択しない理由があるとすれば、勝訴判決を得られる可能性が低いのは言うまでもなく、被告が和解に応じてくれる見通しも立たないからにほかならない。 他方で「請求の放棄」と比べるとどうだろうか。「訴えの取下げ」は明確な敗訴を避けられるうえ、「玉虫色」の状態に持ちこめる。それに加えて、後で改めて訴訟を提起できることも「メリット」であるようにも見える。 しかし、荒川弁護士は「事実上、後で改めて訴訟を提起することは困難」と指摘する。 荒川弁護士:「訴訟が始まり、被告が準備書面の提出等をして『ファイティングポーズ』をとっている場合、原告は勝手に『訴えの取下げ』をすることはできないのです。 なぜなら、被告には『請求棄却判決』(勝訴判決)を得る利益が生じているからです。 原告が訴えを取り下げるには、被告の同意を得なければなりません」 つまり、今回の松本氏のケースでも、間違いなく、被告の文春側にうかがいを立てて、同意を得たうえで『訴えの取下げ』が行われたことを意味する。 そして、荒川弁護士によれば、原告が訴え取り下げについて被告の同意を得るために「裁判外の和解」がなされるケースがほとんどだという。 荒川弁護士:「『裁判外の和解』は原告と被告との間の『私法上の契約』です。『原告は被告に対する訴えを取り下げます、条件はこれこれです』といった内容です。 同じ『和解』でも、前述した『裁判上の和解』とは異なり、裁判所はいっさい関与しません。ただし裁判外とはいえ原告と被告を拘束します。つまり、原告は契約上の義務として『訴えの取下げ』をする法的義務を負います。履行しなければ損害賠償等の責任が生じます。 そこで、原告が被告側に『訴えの取下げ』に同意してもらうための条件として、たいていは『二度と同じ訴訟を提起しません』という『不起訴の合意』がなされるはずです。私が被告の弁護士ならば、間違いなくそうします。 裁判外で『不起訴の合意』が行われた場合、その後で原告が再度同じ訴えを提起しても『訴えの利益』がないとされ、『却下判決』が下されます。つまり、原告は事実上、同じ紛争を後で蒸し返す手段を失うことになります」 結局、原告の立場からすれば、被告の応訴後に「裁判上の和解」ではなく敢えて「訴えの取下げ」を選ぶメリットは、「玉虫色」の状態に持ちこめること以外には乏しいと考えられる。