松本人志氏「訴えの取下げ」は裁判を“すべてなかったことにする”手段 裁判をやめるため「他にとりえた2つの方法」とは?【弁護士解説】
「訴えの取下げ」以外にとりえた「2つの手段」
上述した大きな不利益にもかかわらず、原告が「訴えの取下げ」を選ぶには、相応のメリットがあるはずである。どのようなメリットが考えられるか。その前提として、他にとりうる手段との違いが問題となる。 原告が主導して訴訟を終了させる手段には、「訴えの取下げ」以外にも「請求の放棄」(同266条)「裁判上の和解」(同267条)がある。それらはどのようなものか。 荒川弁護士:「まず『請求の放棄』は、原告がみずから請求に『理由がない』と認めるものです。調書が作成され、請求棄却判決、つまり全面敗訴の判決が確定したのとまったく同じことになります(同267条参照)。 次に、『裁判上の和解』は、原告と被告がお互いに譲歩し合い、文字通り和解するものです。たとえば、『被告は原告に請求額の10分の1を支払えばよい、その代わりに被告は記事を取り下げ謝罪する』といった内容です。調書が作成され、一部認容判決が確定したのとほぼ同じ意味を持ちます。 なお、『ほぼ』としたのは、和解調書には訴訟の対象となっていた損害賠償請求権の他にも、様々な条項を柔軟に盛り込むことができるからです」
「請求の放棄」「裁判上の和解」をした場合の「効力」は?
「請求の放棄」「裁判上の和解」は、調書に記載されると「確定判決と同一の効力」をもつと規定されている(民事訴訟法267条)。では、この「効力」とはどのようなものか。 荒川弁護士:「確定判決の効力で重要なのは『既判力』(同114条1項、115条1項1号)と『執行力』です。 まず、『既判力』とは、原告が裁判で主張した被告への請求権の有無等について、判決で確定された判断が、当事者と裁判所を拘束するというものです。原告は以後、同じ紛争について訴えを提起しても『請求棄却判決』が下されます。名誉棄損訴訟の場合は、もちろん被告の表現行為は『野放し』ということになります。 次に『執行力』は、被告が裁判で確定された義務を果たさなかった場合に、強制的に履行させるものです。たとえば、被告が損害賠償金を支払わなかった場合に、被告の財産を差押えて換金し、原告にそれを払い渡すことが認められます」 では、『請求の放棄』『裁判上の和解』が調書に記載された場合、『既判力』『執行力』は具体的にどのようにはたらくのか。 荒川弁護士:「『請求の放棄』は、原告の請求が否定されるので『既判力』のみが生じます。 原告の被告に対する『損害賠償請求権』等の権利が完全に否定され、同じ紛争について後で訴訟を提起しても『請求棄却』の判決が行われます。 これに対し『裁判上の和解』には『既判力』と『執行力』の双方が生じます。まず『既判力』により原則として原告と被告の双方が和解条項に拘束されます。また『執行力』により、和解条項を守らなかった者に対する差押え等が認められます」