ワイド&ローな存在感! マセラティ・キャラミ デ・トマソ・ロンシャン(2) エキゾチックさで誘惑
自然な運転姿勢で長距離ドライブも快適
ロンシャンのインテリアは、ラグジュアリーなマセラティ・ビトゥルボにも通じる世界。オーナーのブレアは、オリジナル状態を大切に維持している。優雅な香りまで。ウッドトリムが、GTS-Eの特徴となる。 フロントシートは、キャラミより肉厚でソフト。そのぶん、リアシート側の空間は狭いが、高さ方向には余裕がある。運転姿勢は、古いイタリア車のように不自然ではない。ステアリングホイールの調整域が広く、快適に長距離ドライブできそうだ。 キャラミのインテリアは、レザー仕立てでさらにエレガント。ロッカースイッチはジャガーと似ており、メーターにはトライデント・ロゴがあしらわれる。 先に試乗させていただいたのは、ロンシャン。狭い公道でワイドさを実感しつつ、威勢の良いサウンドを放ちながら活発に先を急げる。 グレーのキャラミが積むマセラティ・ユニットの方が、回転は滑らか。サウンドの響きも、より心地良い。ロンシャンのプッシュロッド・ユニットよりアイドリング時は賑やかだが、鋭くキックダウンする3速ATとの相性にも優れる。 加速は力強く、巡航は安楽。意欲的な速度上昇も、簡単に引き出せる。30年ほど前に運転させていただいた、MTの4.2Lエンジン版より間違いなくエネルギッシュ。同時に、ロンシャンの体験へ大きな違いまではない。
独自性で惹きつけたロンシャンとキャラミ
ステアリングは、キャラミの圧勝だろう。ラック&ピニオン式のラックは、ロンシャンにはない精度があり、新世代感を滲ませる。実質的な先代に当たる、1969年のマセラティ・インディでは叶えがたい繊細さで、狙い通りのラインを描いていける。 手のひらへキックバックが伝わってくるが、旋回時の安定性は高い。小回りは利かない。着座位置は低く、細いフロントピラーが優れた前方視界を作る。ブレーキはかなり強力で、ボディロールは控えめ。実力をすぐに探れるようになる。 エンジンの軽いキャラミの方が、コーナリングは有利そうだが、ロンシャンもアンダーステアは控えめ。乾燥したアスファルトなら、グリップ力に不足もなかった。 1970年代後半に入り、大手の自動車メーカーとデ・トマソが用意できる開発予算の格差は、拡大する一方だった。キャラミでも、メルセデス・ベンツ450 SLCが有する完成度や、ポルシェ928の魅力的な走りへ届いていないことは否定できない。 しかし、ロンシャンとキャラミはイタリアン・エキゾチックとして、数100名の好奇心旺盛なドライバーを、他にはない独自性で誘惑した。フィアットの支援を受けた当時のフェラーリにも負けない、特別な情緒を今でも感じることができるように思う。 協力:マクグラス・マセラティ社