【全国で相次ぐクマの出没】「駆除」だけが解決策か?私たち人間が考えるべきこと
9月23日、午後8時過ぎ。世界自然遺産・北海道の知床国立公園内。小誌取材班は「夜の動物ウォッチングツアー」に参加していた。これは、野生動物管理に関心のある学生たちを対象に、知床自然大学院大学設立財団が主催する「知床ネイチャーキャンパス」のプログラムの一つだった。 【写真】闇の中に突如現れたヒグマ 道中、学生たちとフクロウの一種やキタキツネ、エゾシカなど、様々な野生動物を見ることができた。 ツアーも折り返しの段階に入った。ワゴン車は暗闇の道路を低速で走行し、運転手兼ガイドの解説を聞きながら、我々は右前方に見える、美しい、大きな月を眺めていた。 その時である。 10メートル程度先の左側に、突如として四足歩行の〝黒い物体〟が姿を現し、悠然と道路を横断する様子が目に飛び込んできたのだ。 「あ! クマだ!」 第一発見者となった私は、興奮のあまり、思わずそう叫んだ。 ヒグマである。しかも、正真正銘、野生のヒグマだ。 ツアー開始前、「ヒグマを見ることは最近少ない」という情報を聞いていたので、まさか目の前に現れるとは思ってもみなかった。 取材班は幸運にもそのヒグマをカメラに収めることができた。正確には月を撮影中、ヒグマがカメラのファインダーの中に入っていたのだ。 推定だが、大きさは1メートルを優に超える。次頁には、同じ写真で明度を高くしたものを掲載しているので見比べてみてほしい。はっきりとヒグマの存在を確認できるはずだ。
その後、ワゴン車は停止し、車内からペンライトを当てて行方を追ったが、ヒグマは立ち止まることなく、森の中へ消えていった──。
相次ぐ出没で過熱する報道
全国でクマ(ヒグマ、ツキノワグマ)の出没が相次いでいる。 環境省によると、2023年度はクマ類による人身被害の発生件数が198件に上り、219人が被害に遭い、そのうち6人が死亡している。これは、統計のある06年度以降で過去最多だ。また、昨年10月の人身被害の発生件数も過去最多となった。 出没すればするほど、メディアの報道も過熱する。しかも、クマ=恐ろしい動物の観点で報道され、人間に危害を加える可能性があるとして、最終的に「駆除された」という結論で終わるニュースが多い。 確かに、クマは驚くべき身体能力を持っている。 「クマは、山の中を歩きながら筋トレしているようなもの」 取材したある研究者がこう表現するように、エサを求め、険しい山道を四足歩行し、長い時には1日に何十キロ・メートルも移動するほどの健脚の持ち主である。 また、鋭いツメに大きな歯を持ち、時速50キロ程度で走ることもできるという。これはオリンピック金メダリストのウサイン・ボルト選手を超える速さであり、追いかけられた人間が逃げ切ることは容易ではない。 しかも、クマは一度食べたものに執着し、特に人間が食べるもの、人間が作ったものの味を覚えたらしつこく求めるようになる。 かつて、人間そのものが対象になったこともあった。これはヒグマの例だが、大正時代の北海道で、実際に起こった惨事をもとに描かれた吉村昭の『羆嵐』(新潮文庫)にはこう記されている。 「羆は肉食獣でもある。その力はきわめて強大で、牛馬の頸骨を一撃でたたき折り内臓、骨まで食べつくす。むろん人間も、羆にとっては恰好の餌にすぎないという」 もちろん、すべてのクマが人間を襲うとは限らないが、簡単に勝てる相手でないことは想像に難くない。